第30話 宝物

 クリスマス当日。

 私は時生ときお君と一緒にいる。

 妹に感謝です、ありがとう!

 いつものように本屋で本を語り合う。

 新作や授賞作から名作まで、じっくり見て回り、漫画コーナーでも語り尽くした。

 まだ語り足りないと思って、今は喫茶店にいた。

「ここ初めてか?」

「うん、レトロで雰囲気良くて隠れ家みたいだし、落ち着く。この振り子時計なんて、いろんな人達を見てきた番人みたい」

「確かに」

 時生君、悩み事の時に心を落ち着かせ、ここのケーキが食べたい時に行っていたとのこと。

 小さなビルの2階にあるこの喫茶店の名前は"喫茶店・湖"。

「はーい、ショートケーキとチーズケーキ!」

「「ありがとうございます」」

「時生君がまさか女の子連れてくるなんて驚いたわ!いつも斗緒哉とおや君なのに隅に置けないな!このこの!」

尾沢おざわさん、俺にかまってないで、ほら」

「あっ!ほんとだ!あとで事情聴取するからね!」

 とても明るい店員さんだ。

「店員さん、感じ良い」

「だろ?だから良いんだよここ」

 時生君はチーズケーキを一口食べる。

「美味い」

 私もショートケーキを一口。

「クリームがふわっと溶けて、生地もふわふわで、美味しい!」

 ベタつかないクリームは初めて、ふわっとクリーム最高!

「こだわって作ってるらしい」

「へぇ~」

 良いお店を知れて嬉しいです!


 何気ない会話をしながらケーキを食べ終えたのは、夕方の5時半。

「そろそろ帰るか」

「だね」

 席を立ちお会計を済ませると、カウンター席に写真が1枚あって、なんとなく見てしまった。

「あっ・・・この人!」

「ん?」

 時生君も写真に気づき覗き込むように見る。

平幡ひらはた先生じゃね?」

「だよね!てことは、この隣にいる人って・・・」

「平幡先生のこと知ってるの?」

 尾沢さんから質問がきた。

「はい、私と時生君の担任は平幡先生なので」

「そうだったの?だったら早く教えてよ!」

 尾沢さんは時生君の肩をバシバシ叩く。

「痛いっす、もしかして知ってるんですか?」

「そうだよ!先生は中学生の時からずっと常連さん♪」

 お得意様じゃん!

「あの、湖波こなみつぐみ先輩から先生の大恋愛について聞いてて・・・もしかして先生の隣にいる人ですか?」

「そっか!つぐちゃんとも知り合いなのか!うん、世界は広くて狭いね」

「あのー・・・」

「あははごめん!そうだよ、この子が先生の恋人よ」

 やっぱり。可愛いなぁ。

「とても可愛くてちょっぴり抜けてて、でも優しい子だったのだよ」

 そんな人が・・・もういないなんて。

「あなた達がこの写真を見たってことは、きっとこの子は嬉しいって思ってるから」

「どうして?」

「この子を知る人がまた1人増えたから。忘れられると寂しいじゃん」

 そうか。

「いつか先生からお話聞いてみたいです」

「聞いた方が良いよ!」

 にこにこと尾沢さんはお話してくれたのだった。



 喫茶店を出ると雪が降っていた。

「冬だな」

「冬だね」

 ホワイトクリスマス、毎年だから何の感情もないのに、好きな人が隣にいるだけで、雰囲気のある日になるなんて。

 マフラーを首に巻こうとすると、時生君が「貸せ」と言ったのでマフラーを渡した。

 すると彼は私にマフラーを優しく巻いてくれた。

 恋人じゃないのに、良いのかな?

 ドキドキが止まらない。

「よし、良い」

 優しい彼の顔をまじまじと見た。

 やっぱり、カッコいい・・・。

「そうだ、はい」

「?」

「クリスマスプレゼント」

 えっ?えーっ!?

「あの、えっ」

「中身は帰ってから見ろよ」

「は、はい!」

 嬉しい!やったー!


 家まで送ってもらいさよならした。

 帰宅して部屋に入り着替え終えると、さっそくプレゼントとにらめっこ。

「何だろう?」

 震える手で破れないように包装を解く。

 現れたのは・・・。

「!?」

 欲しかった本だった。

 嬉しい嬉しいよー!わぁーい!

 大切に大切に読んで保管しよう!私の宝物!

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