第26話 どこへ向かうのか?

 湖波つぐみ side


 ミスコンにあの子はエントリーしていなかった。

 だから私は全力でダダをこねてこねまくり、たちばな君と平幡ひらはた先生を説得した。

 前夜祭の日にあの子に伝えた。

 嫌だと言ったら諦めるつもりだったけど、言われると私がまたダダをこねるので、有無を言わせずイエスと信じて逃げた。

 私はエントリーした人達を見てピンときていなかった。

 可愛いのは分かる、でも何か違う。

 写真から伝わるのは、自意識。

 目立ちたがり。

 控え目が見えない。

 だから、私は最初から原石だと信じて、あの子を推薦した。

 伝えなければならい相手がいるのだから。


 舞台でおろおろしていたから手助けを。

 魔法がかかるように、落ち着くように。


「みんなあなたの味方、だから自信を持って!ちゃんと言うのよ!」



 佐藤あずき side


 姉ちゃんの文化祭を見に来た。

 盛大だ、さすが高校生!

 出入口にいた人から、プログラムや案内図などが書かれたパンフレットを渡された。

 開いて見ると、姉ちゃんのクラスは子供の広場と書いてあり、読み聞かせの時間もあった。

 その他の所もザッと見る。

 あっ・・・。

「姉ちゃん、マジか・・・」

 スポットライトを浴びるタイプではないのに。

 言葉が出なかった。

 とりあえず、コンテストの時間までにうろうろすることにした。


 見尽くしたので体育館に向かうと、見覚えのある人を発見。

「とき君!」

「おぉ!あずきちゃん!」

 会ったならご一緒しようではないか!

「見に来たの?」

「書いてあったからな」

 なるほどぉ~。

「一緒に行こう」

「だな、そうするか」

 姉ちゃん、今伝えると良いかもよ?


 とりあえず、タイミングがあったので叫んだ。

「姉ちゃん、ガンバー!」

 あっ、睨んでる。

 でも私の隣の人を見て変な顔してる、ウケるー♪



 安藤時生 side


 あずきちゃんと一緒に体育館に来た。

 空いてる席を見つけて、横に並ぶように座った。

 こんなのに出るタイプではないのに。

 あの押しの強い生徒会長に無理くりかな?

 頭が痛くなるな。

 断らなかったということは、それなりに覚悟があったのだろう。

 出番が来た。


 えっ・・・


 雰囲気が違っている。

 いつも三つ編みおさげの髪型で、スカートの長さは普段より短い。

 イメチェン、か。

 モヤモヤする。

 あんな姿を人前に出すな、と思う。


 そう、あの時、ドキッとした。

 斗緒哉に言われたあの一言。


『あんずちゃんのこと好きなんだ』


 その瞬間に気づいた。



 取られたくない、強くそう思った。


 だから今、彼女が普段と違う雰囲気なのに対して、イライラする。

 すると、彼女は話し出した。


「私、佐藤あんずは、昔太っていました」


 今、言うのか、その話?


「本当にぷくぷくして顔はまん丸で。でも、そのことに気付かせてくれたある男の子と親友の2人に感謝します。

 痩せてみて、世界が変わりました。

 メイクや服などのオシャレに目覚めたからです。

 そしてやっぱり、友達が増えて、楽しい学校生活を送ることが出来ました」


 俺は君を傷つけたのにー・・・


「あの時気付かせてくれたその2人に感謝します、ありがとう!以上です!」


 拍手が沸いた。


 俺は伝えないといけない。

 誰よりも先に、この気持ちを。

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