第22話 向き合う時
数日後のこと。
大人しくしていたあの子はまた動き出す。
今度は1人で。
それに対して、私は動じることも怖がることもない。
向き合う時がきたのかもしれない。
※
私は屋上に呼び出された。
1人で行こうと思ったけど、なんか違うと思って、
彼女が向き合わなければいけないのは、私と時生君な気がするから。
何かあれば不味いから、先生に伝えといている。
「2人で来たんだ?」
うん、今のあの子は、おかしい。
心が歪んでる。そう見えた。
「まあ良いけど」
その子は屋上のど真ん中にいた。
私と時生君は一定の距離を保つ。
「話って何?」
私は聞いた。
「この前も言ったけど、学校辞めて」
「それはこの前断ったよ」
学校なんか辞めない。
時生君と一緒に卒業するって決めてるし!
あわよくば、その先もいつまでも一緒に・・・ってことは、けっ!?
て、今はそうじゃなくて!自分しっかり!
「なんなのよ・・・邪魔ばっかり」
いやいや、邪魔してないし。
「圧をかければかけるほど、今までは嫌いな人はみーんないなくなってくれたのに」
後ろに甘えん坊かよ。
「でも、あんたは違う」
でしょうね。
「なんで!?なんでなの!?」
その子は突然駆け出し、時生君に抱き付き泣きながら訴える。
「なんで私じゃないの・・・?」
私は黙って見守る。
「それは・・・」
抱き付いていたその子と時生君は距離をとった。
「中学の時は好きだった。今は何とも思わない」
はっきり言った。
「好きなら・・・まだ思ってても」
「俺はあの時、君にとってスペアだったろ?」
「・・・っ」
「だから、その時に一気に冷めた」
はっきり言った。
「そんな・・・」
「もう、誰も傷つけんな」
するとその子はゆっくりと胸ポケットから何かを取り出し、その先を私たちに向けた。
カッター、だ。
「
「こないで!」
ダメだ、気が動転している。
「何よ、みんなして・・・パパもママもそう」
一歩も動かず、ただ聞く。
「お手伝いさんにばっかり私に押し付けて、お出かけすらしないし、おじいちゃまおばあちゃまだって、構ってくれなくて」
やっぱり・・・。
「パパとママは外では良い夫婦だけど、家では平気で私の前で喧嘩するし」
ダメだ、悲痛しかない。
「夜遅くとか言ってパパは内緒でお手伝いさんと会ってるなんてママ知ってるし」
家庭環境、最悪最低じゃん。
「友達は私の言うこと最初は全部聞いてくれるのに、最後はやっぱり1人ぼっちだし」
聞くに耐えられない。心が痛い。
「だから、困った時だけパパとママに頼った、そしたら全部何とかしてくれた、なかったことにもしてくれた!」
「それが、間違いなんだよ!」
「間違ってない!」
黒い、真っ黒だ。
「私は、間違ったことなんかしていない・・・怒られたことないもん・・・だから、正しい、全部全部正しい!」
このままじゃ、壊れてしまう。
誰か、誰か、誰か・・・!
ギィ・・・
屋上の扉が開いた。
「待たせたな」
「「先生!?」」
「話してくれたから、手を打った。どうぞ」
先生の後に続いて入って来たのは・・・
「パパ・・・ママ・・・」
金井
「全部聞いたからな。では、金井さん、娘さんとお話してください」
「はい」
神妙な顔の父親、泣いている母親。
「
「「はい」」
先生の指示に従い、私と時生君は屋上から出る。
出る前に。
「佐藤」
「はい?」
「すまなかった、危ない目にも合わせて・・・教師失格だ」
「そんなことないです」
「えっ」
「ちゃんと助けてくれた、だから教師失格じゃない。立派な教師です」
「・・・ありがとう」
「どういたしまして」
私は屋上から去った。
後日。金井さんは結局、また転校した。
通信教育の方にしたらしい。
家庭環境は、ご両親が離婚し、金井さんの親権は母親の方に。
これで、良かったのだろか?
モヤモヤする。でも、いつかきっと“良かった”と言える日が来ると信じてー・・・
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