第18話 正体

 帰り道、初めて時生ときお君と2人で下校する。

「お嬢様ってことは・・・」

「言葉の通り」

「親は何を?」

「会社の次期社長が父親、祖父が現役の社長。母親は教育委員会の偉い人だったかな」

 超面倒くさいじゃん。

「中学の時に自慢気に話すのを聞いたからさ」

 なんて女なんだ。

「てことは、前の高校でのことは揉み消した的な?」

「多分な」

 ややこしい。

 苦虫を噛んだような顔をしている時生君。

「あんず、何かあったらマジで言えよ」

「分かってる分かってる!」

 明るく言わなきゃ。

 心配はかけられないから。

「約束な?」

「うん!」


 この時はまだ知らない。

 結城ゆうき君からの情報を甘く見ていたおかげで、私はどんどん不利になってくることを。

 そして、金井かないさんの本性がとんでもないことも、本当の意味で分かっていなかった。



 最初は小さかった。

 金井さんの席の横を通ると、足を出して転ばされる。

 金井さんが私の所を通るとわざと机を蹴られた。

 1週間が過ぎると、教科書に異変が起きた。

 小さな破れ、小さな落書き。

 次に内履きが濡れていたり汚れていたり。

 小さなことだったから気にはしなかった。

 一方で、執拗に金井さんは時生君に話しかけていた。

 でも彼は無視ばかりで、彼女は自分の席に戻るとイライラしていた。

 すると、クラスで出来た友達が声をかけて慰めると泣いていた。でも嘘泣き。


 私は思った。


 あの子はきっと・・・


 私は怒ることをしなかった。

 美夜みやちゃんたちや先生に対処してもらうこともしなかった。

 それが、後に後悔する。

 ちゃんと対処しておけば、エスカレートしなかったのに。

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