第13話 あの時

「いつ、から?」

 驚きと混乱を通り越して、頭が真っ白な状態の中、無意識に言葉が出てきた。

「最初から」

 肩を竦めている時生ときお君。

「なんで?言ってくれたら、私・・・」

「ごめん、怖かった」

 私ってやっぱり、あの時、何か迷惑したのかな。

 泣きそうになると、時生君は慌て始める。

「違う、そういう意味じゃなくて、あんずちゃんには謝りたい」

「えっ?」

 謝る?なんで?

「時生君は何も」

って言ったことを、謝りたい」

 そんな・・・。

「いいよ、今の時生君にたくさん良くしてもらって、これからだってそうだし、大丈夫だよ」

 時生君は首を横に振る。

「後悔したから」

 夏なのに、2人がいるこの場所は、冷たい。

「本当にごめん」

「ううん、いいよ」

 ずっと背負わせてしまった後悔。

 私の方こそ申し訳ない気がしてきた。

「私は大丈夫、時生君、ありがとう」

 そうだ、もうとっくに許しているんだから。

「あんずちゃん」

「呼び捨てで良いよ」

 もう高校生なんだから。

 幼かった2人はもう心の中だけ。

「あんず」

「うん、時生君」

 私は気づいた。

 どさくさに紛れて、時生君って読んじゃったああああー!?

「ああああ安どっ」

「時生で」

 嘘、良いんでしょうか?

「・・・いいの?」

「うん」


「ところで時生君、怖かったって言ってたけど、私がいない間に何があったの?」

 すると、時生君は意を決して、語り出した。



安藤時生 side


 小学生になって、生活は変わらず普通だったし、あんずちゃんがいなくてせいせいしたけど、どこか寂しさも拭えなかった。

 中学生になり、新しい友達が出来て楽しく過ごすと、中3で初めて彼女が出来た。

 同じクラスの女の子。

 一緒にいて楽しくて楽しくて、同じ高校を考えていた。

 しかし、ある日。関係はあっけなく崩壊。

 親友だと思っていたヤツと俺は二股をかけられていたことが発覚。

 話し合おうとしたら、彼女の方から一方的に「別れて」と言われた。

 理由を聞くと「安藤君は予備みたいなもの」「本命はずっと彼だけ」と。

 ショックで俺は人間関係に不信を持つようになって、次第にクラスのみんなとも距離を置くようになった。

 唯一、小学校から知ってる結城とだけは中学が別々でも、たまに会っていたから、俺は結城と同じ高校に入った。

 元カノと元親友は高校が別で良かった。



「だから・・・席替え潰したり、誰とも連絡先を交換出来なかった」

 重たい、あんなことを平気で出来る人がいるんだ。

 私なんて、ちっぽけで、バカだな。

 浮かれすぎだ。

「時生君、嫌なことがあったら言って」

 時生君に出来ることをやる。

「ちゃんと言って、そしたらなんとかする。私に不満があればなおすから」

 すると、時生君は「ありがとう」と、優しい顔をした。

 でも目は涙がたまっていた。


 また1歩踏み出した。

 2学期からは、もっと大事にしよう。

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