第11話 夏だ!プールだ!

 夏休みに入ってから、最初の1週間は宿題を片付けた。残りは読書感想文のみ。

 それからは、美夜みやちゃんとお買い物したりカラオケに行ったりして夏休みを堪能していた。

 そんなある日。美夜ちゃんから連絡がきた。

 メッセージを見ると。

篠木ささきさんからプールのお誘いがあったからどうする?』

 あの篠木さんから?!

 何か企んでやがんな!

『ちなみに他には誰がいるのか聞いた?』

 10分後、返信がきた。

『篠木さんの友達経由で安藤あんどう君もいるみたい』

 友達経由とはいえ、安藤君も!?

 なら行かなきゃ!抜け駆けは許さーん!!

『美夜ちゃん、行こう!』

『りょっ』

 てなわけで、篠木さん主催とはいえ、安藤君がいるから、行くことにした。

 とびっきり可愛い水着を準備しよーっと!



「美夜ちゃん、この水着良いかな?」

「あんずはどんな水着でも似合うから大丈夫!」

「美夜ちゃんは?」

「私は水着だけど水着に見えないやつあるから」

「ショーパンの?」

「そうそう!Tシャツ着ちゃえば水着に見えない水着さ」

「なるほど!」

 羨ましい、目立たずとも自分に合う水着があって!

「このフリフリついてるやつ良いじゃん!」

 美夜ちゃんが見つけたのは、胸元にフリルのついた白の水着。

「可愛い・・・かも」

「これに決定!」


 現在、プールにきていた。

 篠木さんを筆頭に安藤君、私、美夜ちゃん、篠木さんの友達の筒美つつみ香南かなさん、安藤君の友達の結城ゆうき斗緒哉とおや君の6人が集まった。

 それぞれウォータースライダーで遊んだり、浮き輪でただぷかぷか浮いてのんびり過ごしたり、泳ぎの競争など、思い思いに遊んでいた。

 私は・・・Tシャツを脱げずにいた。

 美夜ちゃんと同じなんちゃって水着にすれば良かったのか、後悔。

 篠木さんは安藤君に密着していた。

 腕を絡めて、なんか胸を押し付けてないか?

 大きいからって調子こいてんじゃないわー!

 ダメだ、小ぶりな胸の私って・・・。

「おっぱいで張り合っちゃダメさ」

「美夜ちゃん!?」

 美夜ちゃんは浮き輪に乗って優雅にぷかぷか浮いていた。あれ?お胸が篠木さんと良い勝負していないか?

「大丈夫、必ずチャンスは巡ってくるさ!」

 グハッ・・・心の傷が・・・。

「Tシャツ脱がんのかい?」

「脱ぐ自信を下さい」

「ほぉほぉ」

 と、美夜ちゃんはプールから上がって私のTシャツを脱がそうと手を伸ばしたその時だった。

 どこからかパタパタと近づく足音。軽快だ、女子かな?

 あっ・・・。

「あーんーずーちゃーん!」

 うわぁっ!!!抱き付いてきた!!!

「こっ湖波こなみ先輩!?」

「あーん、可愛さ倍増する水着姿を私にみッ」

「こーら!」

 湖波先輩の両肩を掴んで先輩はグッと後ろに。

たちばな君、止めないで!」

「ごめんね突然」

「いえいえ」

 まさかの遭遇!

「なんでいるんですか?」

「生徒会の2年生だけでプールに来てね。3年になると受験か就活の波にのまれるから今のうちに」

「そうでしたか!」

「ううっ離せ橘君!もうあんずちゃんのことガオーッてしないから!」

「はいはい」

 パッと手を離した橘先輩。

 すると湖波先輩はいたずらっ子の顔になり。

「えーい!」

「うわぁぁっ!!??」

 思い切りTシャツを脱がされてしまった。

 あわあわしていた私は、ある人と視線がぶつかった。

「ぁっ・・・」

「・・・」

 安藤君、時生ときお君・・・

「見ないでー!!!」



 湖波先輩と橘先輩たちがいなくなった後、私は正気を失っていた。

「私は、私のタイミングで、いや、でも、恥ずかしくて、意気地無しが発動・・・いやいや」

 体育座りで小さくなり、独り言をプールの隅でぶつぶつ言っていた。

「とにもかくにも、一生の不覚。合わせる顔がない」

 いきなりTシャツ脱がされて、安藤君にまじまじと見られて、ショックです。

 自分で脱いで、うぉぉぉっ!て感じなら平気だったのに。

 俯いていると、隣に誰かが座った。

「大丈夫?」

「誰?」

「結城、結城斗緒哉」

 安藤君のお友達か。

「佐藤さん、名前覚えて」

「私は安藤君しか覚えてないです」

 他の同い年の男子なんて覚えてない。

「時生のこと好きなんだ」

「あっ!」

「面白いね」

 クスクス笑う結城君。

「あの、内緒で」

「分かった分かった」

 信用できない、怪しい。

「時生、君の水着姿以前に、俺たちと遊んでいても、積極的にアピールする篠木さんといても、佐藤さんのこと気にしてたよ」

「えっ?」

 知らなかった!

「だって、遊びに夢中かと」

「夢中なようで、佐藤さんが気になるようだよ?」

 私は篠木さんと会話している安藤君のことをじっと見てみた。

 すると、安藤君はチラッチラッと私の方を見ていた。

 き、気になるの?私のことー!

 気にしてもらえるなんて幸せだー!

「本当だ!」

「嬉しいのか!」

「うん!」

 満面の笑みが咲き誇る。嬉しくて幸せです!

「可愛いなぁ」

「ん?」

「なんでもない、じゃまた」

 彼は安藤君たちの所に向かった。

 えー、あの彼の名前なんだっけ?テヘッ♪

 忘れてしまったのはしょうがない、諦めて。

 うん、最後の最後に、安藤君からお言葉があれば立ち直れるのに・・・。

 私はさらに縮こまる。

 ペタペタと、ゆっくり誰かが近づいてくる。

 さっきの人?しつこいなー・・・

「よっと」

「えっ」

 私の隣に、王子様が降臨しました。



 私と安藤君はしばらく無言だった。

 互いに何から言えば良いのか迷っている感じ。

 早く言わないと、早く早く早く・・・。


「あの」

「あのさ」


 言葉が重なった。

「安藤君からどうぞ」

「いや、佐藤から」

 譲り合い。なんだかちょっと笑える。

「ふふ」

「?」

「お互い、始めの言葉に迷うって、ちょっと笑えるなって」

「確かに」

 2人でクスクス笑う。

「安藤君、プールは好きな方?」

「普通」

「私は室内だから良い。外なら日射しが嫌だな」

「焼けるよな」

「それそれ」

 他愛ない会話。

「なぁ?」

「うん」

 間が1つ。

 私の方を向いて一言。


「水着似合っているな」


 ・・・・・・・・・・・・


「んじゃ、帰る準備すっかな」

 安藤君は立ち上がり、更衣室に行った。


 一方の私は放心状態。

 美夜ちゃんに呼ばれるまで、意識は安藤君で満たされた。


 楽しくしょんぼりからの、幸せをまた1つ味わうことが出来た1日になりました。

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