第4話  なんで?

 1



「それで、お母さんったらブロッコリーは嫌だって言ったのに、今日もお弁当に入れてきて」


「いい、お母さんだね」


「もう、どこがですかー」


 小春は柔らかそうなほっぺをぷくっと膨らませる。ほんのり朱が差した、白い頬。陽光に艶やかな茶髪にが煌めき、小春は今日も元気いっぱいである。まるで昨日のことなどなかったかのように……


「そういや今日、女バレも休みなの?」


「はい」


「そう」


 二人並んで歩く帰り道。


 周囲の人からはどのように見えているのだろう。カップルか、それとも……


 告白を断られたにも関わらず、小春は一緒に帰ろうと提案してきた。それに乗ってしまう僕も僕だが、彼女は昨日のことは気にしていないのだろうか。


 もしそうなら、それが、僕にとって一番展開なのだが……


「それにしても暑いですねぇ。アイスでも食べましょう」


 小春に手を引かれ、僕たちは道路を挟んだところのコンビニに向かうべく、歩道橋の階段に足をかけた。


「あの……さ」


 僕は意を決して言った。


「はい?」


「僕、昨日……その、君の告白を断ったよね?」


「あー、はい、そうですね」


 小春はきょとんとした顔をする。それがどうした、とでも言いたげな表情である。


「なのに、なんでまた」


「春樹先輩」


 小春はいっきに駆け上がる。その際、ちらっとスカートが翻り、中身が見えそうになったので僕は慌てて視線を逸らした。


 一番上で立ち止まると、小春は僕を見下ろして、


「私、諦めませんから」


「へ?」


「一度フラれたぐらいでへこたれるような女じゃありません。私、春樹先輩のことが好きなんです。結局、この気持ちは変わりませんから」


「でも、もう一回はっきり言うけどさ、僕は君と付き合う気はないんだ」


 心を鬼にして、僕は改めて告げる。胸が痛いが、仕方がないんだ。


「それはの話ですよね。いいんです。春樹先輩に好きになってもらえるように、頑張りますから、覚悟していてくださいね」


「えぇ……」


 付き合ってくれるまで執着します宣言を受け、僕は先ほどの楽観的な考えを心底後悔した。小春は本気だ。


 やはり、しっかりとを伝えるべきか。


 だけど、それをしてしまったら……


「それにしても暑いですねぇ、早くアイスでも買って食べましょう」


 小春に手を引かれ、コンビニに入る。冷房の効いた店内は気持ちがよく、汗がすっと引いていく。


「これ、半分こにしましょう」


 パ〇コのチョココーヒー味を買った。


「お金、出すよ」


 僕はポケットから財布を取り出す。


「いいんですよ」


「いや、悪いから」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 店の前でパ〇コを分け合う。


「これ、好きなんです。昔、お兄ちゃんと一緒によく半分こしたんです。ま、昔のこと過ぎて憶えてないんですけどね。あはは」


 そう言って笑う小春の顔は、いつもよりも可愛く見えた。


「私、頑張ります」


「何をだよ」


「春樹先輩に振り向いてもらえるように」


「それ、本人の前で言うかな?」


「えへへ」


 両手でパ〇コを持ち、小春はちゅうちゅうと吸う。なんだか小動物みたいで可愛いな。


 その後、小春を駅まで送った。彼女の家は隣町にあるのだ。


「じゃあ、春樹先輩、また明日」


「うん」


 小春を乗せた上り列車を駅の外から見送りながら、僕は心のざわめきを感じていた。


 こんなことになるくらいだったら、関わらなければよかったと後悔している。


「華山……小春」


 僕はこれからどうすべきか考えながら、帰路についた。

 


 

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