君との平穏な時間

奏流こころ

第1話 苦手です、自己紹介

 ゆっくりと登っている。少しキツく感じる坂道だな。

 俺が住んでいる地域は、県北という所で内陸北部ともいえる。

 その中でも田舎は田舎でも、ドがつく田舎である。

 山や川、田んぼに畑と大自然が広がっていて、有名な国立公園がある。

 普通に生活していく中で不便は感じたりはしないが、欲しいものがない時や良いものが欲しい時と、遊ぶとなると、隣の犬のいる市か隣接する他県に行って遊んだり買い物をしてくるのだ。

 そんな田舎に、この春から高校生になった俺、平幡八ひらはたはちは暮らしている。

 坂道がある高校にした事に今更ながら後悔が襲う。

 朝からこの坂道を登るという億劫が待ち構えていると思うとどうしようもない。

 下校時は下りだから楽だがな。

 なりたい職業がなかった為、学力で高校を決めてしまった。

 さて、今はクラスメイト達が自己紹介をしている。

 趣味を言う人、得意な事を言う人、部活や勉強を頑張る宣言など多種多様。

 何を言った方がいいのか、自己紹介は常に悩む。

 本当に言う事がなかった。焦ってきた。

 心臓の鼓動はどんどん大きく激しくなっていく。

 頭の中で唸るように考えていると、順番が回ってきた。

「次、平幡」

 呼ばれてしまった。ヤバい。

 席から立ち上がり、深呼吸をしてから言った。


「東中からきました。平幡八です」


 この後、何を言ったのか全く記憶にない。

 だが、隣の席の七滝ななたきりゅうに声をかけられたので、ぼっちは回避したようだ。

 これからの学校生活が平穏でありますように。

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