第16話「冒険者ギルドとの別れ」

 結局、ギルドの話はメアリーの言ったとおりだったみたい。


 ギルド専属になるなら「C級冒険者」に昇格させてもいいと言われても、別にそんなものに興味はないのだってば。


 もし、私が男の子だったら憧れたかもしれないけど、そもそも戦ったりは怖いから。


「A級ならどうだ!」と言われても……、ごめんなさい、やっぱりギルド専属? というものにはならないわ。


 だって、急に呼ばれていろんなパーティーの一員として連れていかれるのでしょう?


 知らない男の人たちについていくのはダメだって……きゃっ!



 ……冒険者カード取られちゃった。


 せっかくヒーローみたいでカッコよかったのに……


 あと、ほっぺた痛い。


「ユーリ様、お話はどうでしたか?」


 だ、大丈夫。


 もう話はもう終わったわ……さ、帰りましょうか。


「え、グミのお店に行かれるのでは?」


 あ、そうだったわね……ええと、どれがいいかしら?


「まだお店についていませんが……

 あ、忘れ物をしたので一度、お屋敷に戻ってもよろしいですか?」





 ――


「と、いうわけなんです」


 私はユーリ様に付き従っている際に起きた出来事を全て、お嬢様とご友人のリリアーナ様にお伝えしました。


 ユーリ様に子供向けの絵本をお渡しすると、夢中でお読みになられたので、今のうちにユーリ様のご様子がおかしくなった原因を突き止めたいところです。


 リリアーナ様のお話では、ユーリ様は抜けているところが多いから気にしなくてよいとのことですが、お嬢様はどう思われますか?


「でも、ユーリ様のお召し物がなんだかお出かけ前とは違うような気がします」


 さすがお嬢様。


 私が感じていた違和感をぴたりと言い当ててしまいました。


 そうです、きっとお出かけ前と今とでは恰好がどこか違うのです。


「て、言っても……あ、だめ。

 くすぐられ過ぎて頭が回んないわ」


 ……くすぐられ過ぎて?


 そういえば先程からなんだかリリアーナ様の呼吸が乱れていますね。


 お嬢様にそんなにも親しいご友人が出来るなんて感激です。


「もしかしたら勘違いかもしれませんが……

 ひょっとしたら冒険者の方がお付けになるプレートを外されているのではないでしょうか?」


 ……


 それです!


 やっとわかりました。


 そうです、冒険者ギルドにつくまでユーリ様がにこにこと眺めていらっしゃった冒険者プレートがついた首飾りが今はありません!


「でも、何で外してんの?

 私、絶対に外さないように言っておいたのに」


 そうなのですか……なんだか不思議ですね?


 もしかしたら冒険者ギルドが何か知っているかもしれないので連絡してみますね。


 あなたたち、少し席を外すのであとのことは任せましたよ。



 ふぅ、お屋敷で働くメイドはみんな優秀な者ばかりなので助かります。


 この町の冒険者ギルドへの通信コードは……3F09GGですか。


 あ、もしもし。


 私は「オルガンノット家」に仕えさせていただいていますメアリーと申します。


 はい、メアリーです。


 別れを告げる者メアリナではないのか?


 いいえ、ただのメアリーです。


 あと、あなたにその話をした人を教えてください。


 ああ、彼ですか……ありがとうございます。


 それで本題なのですが、本日「ユーリ」と名乗る冒険者がそちらへ来ませんでしたか?


 え、当家との関係ですか?


 ……


 特に関係はありませんのでご安心ください。


 ふむ……なるほど、ギルドの規則を破ったので冒険者の資格をはく奪したのですね。


 具体的に何をしたのか教えていただけますか?


 ギルドマスターの要求を拒んだ……他には?


 冒険を怖がる臆病者はいらない……。


 それはおかしくはありませんか、そもそも彼女は回復……あ、いえ、何でもありません。


 さらに、ギルドマスターに大きな胸を見せ付けて誘惑しようとした……本当ですか?


 いえ、もちろん疑いなどは致しません。


 当然のことだが、その際ギルドとして「指導」した……ですか。


 彼女に一体どんな指導をしたのですか?


 顔を軽くはたいただけで済ませてやった?


 …………


 はい、はい……詳しく教えていただいてありがとうございました。



 ふむ、どうやらユーリ様は冒険者としての資格を失ったようですね。


 まぁ、身分に関しては我ら「オルガンノット家」が保証するので問題はないでしょう。


 問題なのはお仕事をされていないものをお嬢様に近づけること…………いえ、目を背けるのは止めましょう。


 お仕事がなくなってユーリ様に自由時間が増えたことをお嬢様が知ったらやばいです。


 例えるなら……そう、肉食魔物の巣にユーリ様を放り込むようなものです。


 確かにお嬢様はそろそろ……というよりも、既に少し大きな子供がいてもおかしくない年齢です。


 幼い頃の初恋の相手を忘れられず溜まりに溜まった「青春」は、今にもはちきれんばかりにこの瞬間もお嬢様を満たしていることでしょう。


 昨夜なんてユーリ様が何も知らないのをいいことに……いえ、お嬢様の幸せが私の幸せです。


 もう何も言いません、考えません。


 先ほど見たら寝室に何故か四人分の着替えが隠されていたのも、私は知りません。


 私とリリアーナ様の着替えがあった事はいささか不可解なところですが、いざとなったら弁償できますし、大きな問題にはならないはずです。


 私はお嬢様の新しい恋を全身全霊で応援いたします!


 では、今後のユーリ様のお仕事は「当家専属の治療師」ということにいたしましょう。


 お暇なときにはクリスティーナ様のお相手をしていただいて……


 あれ、逆になる未来しか見えませんね?


 ……まぁ、なんだかんだで旦那様も喜ぶでしょう。


 そうと決まれば……あ、リリアーナ様。


 もしかして聞いていましたか?


 違うんです、クリスティーナ様はあくまで「合意」の上で……あ、冒険者ギルドの話ですか。


 どうやら、ユーリ様は冒険者として「適正無し」だと判断されたようです。


 ですので、当家の方針といたしましてはユーリ様に当家専属の治療師となっていただくことになると思います。


 あ、一応言っておきますが、冒険者ギルドに行っても無駄ですよ。


 いくら元・王家指南役だとしても、冒険者ギルドは国から独立した組織ですから。


 あの方たちは自分たちの駒にならないとわかると、すぐに圧力をかけて従わせようとしますし、なるべく関わらないほうが吉というものです。


 何でそんなに詳しいのか、ですか?


 べ、別に普通ではないでしょうか。


 ……


 私はただのメイドです。


 だから、別れを告げる者ではないですってば。


 そんなことよりも、このことをお嬢様の耳にもお入れしないと……


 あ、リリアーナ様に、別れを告げる何とかの話をした人の、名前と顔の特徴を教えていただけますか?


 忘れてしまったのですか……


 では、思い出したら教えてくださいね。


 絶対ですよ?





 ――


 冒険者ギルドのマスターをお願いします。


 いいから早くしてください、でないとあなたが浮気していることを奥様に話しますよ?


 ……もしもし、貴方がギルドマスターですか?


 突然ですが、質問です。


「綺麗な奥様や可愛い子供のいる生活」と、「権力を振りかざして善良な少女をいたぶる生活」


 これから貴方と別れ離れになってしまうのは、いったいどちらの生活でしょうか?

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