第15話「母としてできること」
冒険者ギルドへ向かう途中、メアリーが冒険者についていろいろ教えてくれた。
それってようするに、皆のお願い事を聞いて助けてくれる人たちってことね!
まるでヒーローみたいで、とってもカッコいいわ!
「くすくす。
ユーリ様もその一員ですよ?」
あら、そうだったわね。
じゃあ、もっとカッコつけた方が良いのかしら?
「そのままで十分素敵だと思います」
うふふ、ありがとうメアリ―。
……でも、冒険者ギルドでお話って何のことかしら?
「おそらく、ランクの話ではないかと」
メアリーの話だと、私は「F級冒険者」として登録されているみたい。
私には大した戦闘能力がないから「F級」。
一番下がFで、そこから戦力に応じてE、D、C、B、Aとあがって最後はS。
あ、でもそれ間違ってる。
Aの次はSじゃなくてBよ。
ひっくり返しても……Zになるのよ!
「え……あ、確かにそうですね。
でも、昔からそう決まっているみたいです」
そうなの?
なんだか不思議ね……冒険者のお話もたくさん読んでもらったけど、AとかBとかはなかった気がする。
もっと自由奔放で気ままに生きているお話ばかりだったわ。
「よろしければ、今度お聞かせいただけますか?」
いいわよ。
じゃあ帰ったらクリスティーナやリリアーナ、ローズちゃんとも一緒にみんなでお話ししましょうね。
ここの近くに美味しいグミが売ってるから、あとでそれも買っていきましょ!
――
「そういうことか……
なら、前に送られて来た手紙もすべて真か。
こやつが起きたら謝らねば……いや、その前に」
わしは「亜空間」と呼ばれるものから自分の剣をとりだして腹に当てる。
「カトリーナ様!?
いったい何を……」
辛いことを話させてしまった事、ここにお詫び申し上げます。
私とこの子の間に血の繋がりはありませんが、私は実の娘だと思っています。
娘がしたことはもう、取り返しがつきません。
本来であれば、娘はその命をもって償わねばなりません。
ですが、私はこの子を失いたくないのです。
我がままなことを言っている事は承知していますが……。
「べ、別にリリアーナ様に対して思うところはありませんから、その剣を置いてくださいっ!」
たとえ治療を終え、その身のすべてが癒されたとしても、心までもというわけにはいかないでしょう。
私程度の命では足りないのは明らかですが、せめてもの慰めとしてお納めください……いざっ!
「だからダメですってば!
り、リリアーナさん!?
いい加減タヌキ寝入りはやめて、あなたも止めてくださいっ!」
「た、タヌキはないでしょ?」
リリアーナ……ふんっ、そのままタヌキの真似事でもしていればいいものを。
「し、師匠まで!?」
こうなっては仕方があるまい。
憎き相手が目の前で呼吸をし、動いている様を見たのじゃ、どうあっても腹の虫に収まりがつくことはないじゃろう。
かくなる上は……この国の王に責任を取らせるか。
「ちょ、師匠!?
そんなのダメに決まってるでしょっ!?」
そうはいうが、大体あやつがもっとしっかりしていればこんなことにならなかったと思わんか?
お前が仕事を辞めたと聞いた時、あやつの所に行って後任についてしっかり調べるように言ったのにこのあり様……ん、なんじゃ?
「わ、私のために師匠がわざわざ王の元まで行かれたのですか?」
何を言うかと思えば……べつにおかしな事ではないじゃろう。
前から言っているようにわしはお前の母じゃ。
師匠なんて呼び方は早くやめて「お母さん」と呼んでくれと何度も頼んだじゃろう。
「て、てっきり、冗談の類かと思って……ました」
……。
……はぁ。
お前は本当に、……バカ「娘」じゃな。
でも、そんなところまで好ましく感じるのじゃから困ってしまうわ。
わしも、バカ「お母さん」じゃ……さて、ではそろそろ逝くとするか。
おっと、最後にお母さんと言ってくれんか?
「最後の頼みがそんな事って……ほんとバカだわ。
クリスティーナ!
あんたの男を殺したのは私よ!
お母さんじゃなくて私をすきなようにしなさい!!」
「で、ですから私は先程から何も求めてなどいないのですが……」
おお、リリアーナがわしをお母さんと呼んでくれたぞ!!!
「お母さんっ、ちょっと後ろに下がってて!!」
「私の話を聞いてくださいっ!」
めでたいのぅ、めでたいのぅ……今夜は赤飯じゃ!
最高級の物を買ってくるからよい子にして待っておるんじゃぞ!
「「え?」」
まずは最高級の小豆を「ナナナ農場」まで取りに行ってこようかの。
「あ、あのリリアーナさん?
カトリーナ様、いえ、お母さんが窓から外に飛び出していかれましたが……」
「今、私が恥ずかしがるの分かっててお母さんって言い直したでしょ?」
「ふふっ、そんなことないですわ。
……あ、そういえばリリアーナさんを好きにしてもいいのでしたね?
ではお言葉に甘えて♡」
「そ、その手つきは何よ!
く、くすぐるのはナシよ?
私そういうのっ、すっごい弱いんだから……あっ、ちょ、ちょっと待って!」
「待ちません。
ユーリ様が帰ってきたら三人、いえ四人でするのも……♡」
「え、ホントに何する気なの!?
あんた目つきおかしいわよ、あっ、だめぇ!」
――ん?
いま何やら娘が初めてわしに助けを求めたような…………ま、気のせいじゃろ。
少しばかり年老いたとはいえ、見た目と同様に中身だってまだまだ若い。
娘が助けを求めているかどうかも分からぬほど「もうろく」などしておらん。
念のため屋敷の外には結界を張っておいたし、貴族のお嬢様しかいない部屋で危険なことなど起こるはずもなし…………はて。
わしは何で剣なんか持っとるんじゃったかな?
――親愛なる母上「ローズリー・カトリーナ」様へ――
聞いてくださいお母さん。
あなたの娘は大人の階段を上ってしまいました。
まさかクリスティーナにあんな一面があったとは……自らの観察力のなさを恥じるばかりです。
それにユーリってば、私にあんな隠し事をしてたなんて……♡
こ、こほん。
二人、いえ三人ともなかなかの強敵ですが、私はきっと負けません。
つきましては、以前お母さんがお使いになっていた「寝なくても活力が湧き出るポーション」を少し、分けていただきたく思います。
きっとその薬があれば今度こそ……!
PS.お母さんがお赤飯を持ってきてくれるのをみんな待ってます。まさか忘れて家に帰っていたりしません……よね?
あなたの娘「リリアーナ・ローズリー」より
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