第10話「回復スキル使えます」

「おい、見ろよあれ。

 ……「回復スキル使えます」って何だ?」


「どうせインチキだ、ほっとけよ。

 それよりもここのダンジョンの攻略についてだが……」


 リリアーナのお友達であり、今日から私のお友達でもあるオリヴィアに回復スキル専門の受付を用意してもらった。


 初めての冒険者のお仕事……どきどきする!


「おい、ここで回復スキルを受けられるってホントか?」


 でも、回復スキルを使って欲しいってことは、誰かが怪我しちゃったってことだから……


「聞いてるのかっ!!」


 あら、お客さん?


 でもあなたは……元気です。


「俺じゃねえよっ! 

 俺のパーティーの「マルッテ」が怪我しちまったんだ! 

 あるだけ全部持ってきたんだけど……足りるか?」


 チャリっ、と「小さな」音を立てた革袋の中を覗いてみる。


 ……暗くてよく見えない。


 でも、多分たりてると思う……まだいくらか決めてないけど。


 ええ、大丈夫。そのマルッテさんはどこにいるの?


 ここまで連れてきてくれたらすぐに治せるわ。


 私の座っている机の横に作ってもらった、簡単な仕切りの向こうにあるベッドを指さしながら説明する。


「ホントか!? 

 おーい、大丈夫みたいだ。

 こっちまで運んでくれ!」


「い、今行くっ! 

 しかしだな、やはり借金してでも「ポーション」にした方がいいのではないだろうか?」


「ダメだっ! 

 期日までに金を返せなかったら、俺たちはともかくマルッテが奴隷になっちまう!」


 何やら男の子が必死になって仲間に何かを訴えかけている。


 さすが本物の冒険者……体は小さくても、やっぱりかっこいいのね。


「ここでいいのか!? 

 早く治療を……って、回復スキルなら説明がいるか。

 大きな傷があるのは背中。

 次に大きいのは額だ、背中を切られてそのまま前に倒れたときに……っ!」


「いたいのいたいのとんでけー」


「は?」


 女の子の傷は……うん、ばっちり治ってる。


 じゃあ次はお顔の傷も……できた!


 治療費は……えっと、銀色のが綺麗だからこれを1枚貰って……。


 はい、残りは返すわね? 


 次の方どうぞ。


「あれ、私の怪我……治ってる? 

 えっと……でかっ!?

 じゃ、じゃなくて……みんなが教会まで運んでくれたの?」


「う、嘘だ! 

 こんなに簡単に治るわけねぇっ! 

 ちょっとマルッテ背中を見せてみろっ!!」


「え……きゃ! 

 な、何すんのばかぁ!!!」


「ふぎゃっ!!」


 うふふ、とっても仲がいいのね? 




――


「あ、あのっ、本当にありがとうございました!! 

 ほらっ、いくわよ!」


「ま、待てって、悪かったよ! 

 えっと確かあんた……ユーリさんだっけ? 

 回復スキルってこんなにすごいものだったんだな。

 また頼むぜ!」


 もう来ちゃダメ。


 これからは怪我しないように気を付けなくちゃ。


「え? 

 ……そうだ、その通りだ。

 俺がもっと周りに気を配っていればこんなことには……俺、頑張ります!」


 はーい、頑張ってね。


 それとこれはオマケ。


 帰ろうとする男の子に、リリアーナが買ってくれたグミをみっつ分けてあげる。


 少しの間「きょとん」とした顔をしてから、「にかっ」と笑って仲間のもとに戻っていく。


 ええと、今のは……、治療ばっちり、接客ばっちり、お金も受け取ったし……うん、完璧!


 お金はポケットにしまって……あら?


「お嬢ちゃんいいの持ってるじゃないか?

 おお、ピカピカの銀貨だ! 

 これをたった一日で稼いだのか、大したもんだ!」


「ああ、まったくだな。

 だが俺たちならもっと割のいい仕事を知ってるぞ?」


 今度のお客様は二人組ね。


 その銀貨はこっちのテーブルに戻して、怪我してる人はベッドの上に寝っ転がって……できる?


「おいおい、俺たちのこと知らねえのか? 

 俺たちはな……お、そうだ! 

 じゃあ俺を治してくれよ。ここに寝たらいいんだろ?」


「ぷっ、そりゃいいな! 

 じゃあその次は俺な? 

 ただし、治せなかったら……」


「いたいのいたいのとんでけー」


 私の言う通りにベッドまで来てくれた男の人が、ちゃんと寝っ転がってくれのですぐに回復スキルを使う。


 痛そうだった肘のあたりは……うん、大丈夫そう。


 あとはお顔に大きな傷跡があるからこっちも……あ、ちょっとだけ残っちゃったわ、もう一回……うん、綺麗になった!


「は? 

 なんか今、身体がすげえ楽になったんだが……何をした?」


 ……回復スキルを使ったのよ?


 あなたはいったい、何をしてもらいにここに来たの?


 それよりも次はそっちの男の人の番だから、そこどいてね。


「え、オレ? 

 ていうかジョス、お前顔の傷……あ、ここでいいのか?」


 はいはい、ゆっくりと横になってね。


 痛くないからじっとしてるのよ……。


「いたいのいたいのとんでけー」


 これで大丈夫……あら? 


 腰の下あたりから膝まで、なんだかすごく痛そう……なのに膝から下は痛くないの?


 一応確認して……めくり。あ、動いちゃダメだってば。


 これは……木? 


 何でこんなところに……ぺたぺた、やっぱり木だわ。


 冒険者の男の人って足の代わりに木を付けるの?


 でも、木は腐りやすいから……っぽい。


「お、おい! 

 それ俺の義足……え?」


「いたいのいたいのとんでけー」


 これで足が元に戻って……ない?


「い、痛みが無くなってる……」


 あ、でもさっきよりも少し長くなってるかも。


 それに痛くもないのね……じゃあ、もうちょっと待っててね?


「いたいのいたいのとんでけー」


「いたいのいたいのとんでけー」


 うん、だいぶ長くなってきたみたい。


 これくらいなら残りの部分は木でも大丈夫そう。


 寝る前にはしっかり湿気をとってから……え、最後まで治して欲しいの?


 な、泣かないで? ごめんね。てっきり何か意味があるのかと思って……すぐに治してあげるからね?


「いたいのいたいのとんでけー」


 ほ、ほら! みてみて、治ったわ! とっても素敵よ?


「マックスの足だ……。マックスの足が戻った……」


「お、おい見たか! 

 あそこにいる奴の足が生えたぞ!!」


「しかもあいつら……元C級の「傷なしのジョス」と「不倒のマックス」じゃないか?」


「ホントだ……。

 あいつら仲間に裏切られて怪我してからすっかり荒れてるって聞いたけど……治ったのか……。

 でも、何で?」


 また怪我したらここに来れば治してあげるから、お仕事頑張ってね。


 お金は今持ってないなら、後で持ってきてくれたらいいから。


「おい、見ろよ。

 あいつマジで歩いてるぞ」


「何者なんだ、あの女の子……って、あの子ならうちの仲間の傷も治せるんじゃ!?」


「うちのカミさん冒険者時代の怪我のせいで子供が出来ないって……それも治せるのか!? 

 こうしちゃいられねえっ! 

 すぐに連れてこねえと!!!」


 特別にグミをふたつあげるわ。とってもおいしいのよ?


 いいのよ、私は回復スキルを使っただけだから。


 あ、なんだか並び始めてる……いっぱい治してあげないと!


 ほら、あなたにもひとつあげる。じゃあ、またね……


 あ、待って。


 さっきの銀貨は返してね?

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