第7話「女神の石板」
朝、目が覚めると何か柔らかいものに包まれていた。
「こ、これは一体……なんですの?」
とてもぽよぽよとして、柔らかい。
それに暖かくて……ちょっと固いところもある。
思わずむにゅっと掴んでしまいたくなるけど、まずは何かを確かめてから……。
「あ、そういえば昨日お父様が連れて帰られたこの方をベッドまでお連れして……?
きっと、そのまま寝てしまったのね」
それにしても大きいですわ。
私も決して、負けてはいませんが……って、いまさら何を考えてるのでしょう。
どんなに魅力的なバストを持っていたとしても、私の運命は変わらない。
お父様の運命は変わったのに? と、ちょっとだけ不満のようなものを感じるけど、軽率に婚約所にサインしてしまった私自身が愚かだったのだから仕方がない。
だけど……。
「私の運命は変えてくれないの?」
なんてつい、相手が寝ているのをいいことに意地悪をいってしまう。
「あなたが男の人だったら、私はあなたのことを好きになっていたのかしら?
なんて……あら?」
何か私の下腹部の辺りに当たって……る?
手を伸ばすと、この女の子の服に何か固いものが入っている。
でも、こんなところに物を入れるポケットなんて普通はないような……。
「……ん、クリスティーナ?
どうして私と一緒に寝てるの?」
――
気が付くと私は、クリスティーナと同じベッドの中にいた。
というか、私はいつの間にベッドに入ったの?
なんだかとってもふわふわとしてて、とっても気持ちい!
「おはようございます。
昨日はお父様を助けていただいて、ありがとうございました」
助けて……ああ、そうだったわ。あなたのお父さんに回復スキルの使い方を教えてもらったの。
お父さんとっても元気なのね?
「あ、そうなんです!
元気になりすぎて、今日は朝まで起きていたみたいですわ!!」
うふふ、男の子っていつまでたっても夜更かしが好きなのね。
それで、クリスティーナはどうしてここに?
「失礼いたします。
お嬢様、お客様のお食事の用意が出来ました。
すでに旦那様もお待ちになっております」
あの格好は……メイドさんね! すごい、とってもかわいいわ!!
「あ、その……お褒めいただきありがとうございます。
それでは、お着替えをお手伝いいたします。
こちらは最近の流行を取り入れたもので特に腰のラインが綺麗に……っ!?」
すごく可愛い! これを着てもいいの!?
あ、自分で脱げるから大丈夫なのに……ありがとう、なんだか恥ずかしいわ……。
「今日もありがとうメアリー、じゃあすぐに私も着替えないと彼が……あら、どうしたのメアリ―?」
「これは……男性の……いえ女性のも……??」
そ、そんなところ触ったらくすぐったいわ。
ね、ねえやめてっ、あはっ、あははははっ!
「た、たたっ、大変失礼いたしました!
ど、どうやら……下着のサイズの目測を誤ってしまったようです。
すぐに代わりの物をお持ちいたします!!!」
「メアリーっ!?
は、走ったら危ないですわ!」
メイドさんって足も速いのね。
昨日のリリアーナみたい。
でも、やっぱりこの服可愛いっ! こんなの生まれてはじめて!!
まるで物語の中のお姫様になったみたい!
「とってもお似合いですわ!
もう少しウエストが細かったら私も着れますのに、残念です」
それってお揃いってこと?
とっても素敵だわ!
じゃあ、もっと細くなるように腰のマッサージをしてあげる……こちょこちょこちょ!!!
「きゃ、きゃー、や、やめてくすっ、くすぐったいですわ!
あ、あはははっ!」
うふふ、メアリーが戻ってきたら、今度は私たち二人でくすぐりましょ!
「名案ですわ!
でも、そ・の・ま・え・に……」
な、何その手つき!
私はメアリーにくすぐられて、クリスティーナは私にくすぐられたんだから、次にくすぐられるのはメアリーでしょう!?
「あ、それもそうですわね?
じゃあやめ……ないですわっ!
こちょこちょこちょー!!!」
きゃ、ふふっ……とってもくすぐったいわ……んっ!
わ、わきは反則よっ、あ足の内側もだめ、あ、あははっ!
「ここですわね!
ここがいいのですわ……ね?
あれ、今何かもにゅっとしたものが……」
「先程は大変失礼いたしました。
当家にはお客様の「身体に合う」下着がありませんでしたので、別室にてお作りいたします」
あ、来たわよクリスティーナ!
一緒にくすぐりに……あら、どうしたの?
「いいえ、何でもないですわっ……め、メアリー!
後のことはお願いしますわ!!!」
「お嬢様っ!?
は、走ると危険ですっ!!!」
この家の人たちって、みんな移動するとき走るのかしら?
「い、いえ、決してそういうわけでは……、忘れていただけると助かります。
ところで、ご用意させていただいた生地の中にお好みの色はございますか?」
そうなの?
あ、どれも綺麗な色ばかりね。
そうね……このお洋服と同じ「空色」の生地がいいわ。
――
「よくきてくれたね。歓迎するよ「小さな女神様」!」
「さ、先ほどはお恥ずかしい姿を見せてしまい、大変申し訳ありませんでしたわ」
別に気にしてないわよ、クリスティーナ。
それより小さな女神さまってどこにいるの? 私も見てみたいのだけど……。
「君のことだよ!
私の怪我を直してくれただろう?
あんなこと王家の治療師にだってできやしない、まさに女神の奇跡だ!!!」
なんだ、私のことを言ってたのね。
うふふっ、そんなに大げさに褒めてくれると照れてしまうわ。
それよりも、このお洋服とっても気に入ったわ!
すっごく綺麗で、とってもかわいい。
「それは昨日のお礼だよ。
何着か用意しているからあとで受け取ってくれるとありがたい。
改めてになるが、昨日は本当に助かった。ありがとう」
「私からもお礼申し上げますわ!
もうお父様とは会えないものとばかり……」
私は大したことなんてしてないわ。
回復スキルの使い方を教えてくれたのは、あなたのお父さんだもの。
「クリスティーナ、本当に心配をかけてすまなかった。
そして小さな女神、君のことは調べさせたのだが何もわからなかった。
まるで森に突然現れたみたいだが……君のことを教えてもらえるかい?」
わたしの事?
うーんと、森じゃなくて空にいたのよ。
「空? も、もう少し詳しくお願いしたいのだが」
ええっと、だから気が付いたらお空にいたの。
そのまま周りの景色を見て楽しんでいたら、おおきなキノコの上に落ちて、なんだか木の上に綺麗なガラスみたいな果物をみつけて、リリアーナに出会って……あ、リリアーナのこと忘れてた!
「ああ、そういえばリリアーナ君と一緒にいたね。
用事を済ませたらこちらに来ると言っていたからすぐ会えるさ。
それよりも今の話は……果物?
もしや……嫌、そんなわけないか」
「まさか、あなたは本当に女神様ですの?」
いいえ違うと思うわ。
でも、私もよく分からないの。
前にあったことを思い出そうとしても、頭の中がずっともやもやしてて……。
「では、君の名前だけでも教えてくれないか?」
え?
「?」
えっと、私の名前は……なまえ……は、……ぐすん。
「ど、どうしたのかね!?」
「だ、大丈夫ですわ!
ほら、大丈夫。
ゆっくりでいいんですのよ?」
名前……ぐすっ、わからないわ……。
「それは……本当か?」
「お父様っ!?」
「あ、すまない!
命の恩人を疑うような真似を……おい、誰か石板を持ってきてくれ!
ああ、ありがとう。
重ねて無礼を承知で頼むが……こちらに手を置いてくれないか?」
……ひくっ、すんっ……、それなあに?
「これは、「女神の石板」といって、手を置いた人の情報が浮かび上がるようになってますの。
もちろん名前もわかりますので、これできっと思い出せますわ」
そうなの? じゃあ、置くわ。
あ、綺麗な光……。
「おお、ありがとう。
では読むぞ、名前「なし」、性別「女」、種族「人間」、スキル「回復スキル・男の子スキル」、犯罪歴「なし」、所属国「なし」……バカなっ!
名前が「なし」だと……?」
「それにスキルが二つもありますわっ!?」
私の名前ない……の? ……ぐすっ、嘘つき。
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