第206話 ダブルドラゴンのオフェンス  

空母蒼龍、空母飛龍。

両艦はミッドウェーの海を軽快に!超高速で疾走している!!


空母蒼龍の艦橋上の見張所に陣取る山口多聞少将は49歳、第二航空戦隊司令官である。

吹きすさぶ風を物ともせずに不動の姿勢を保つその姿は軍神のようだ。


山口多聞少将は武士の末裔であり、海軍兵学校の成績は2番。剣道は最強を誇り、生まれた時代が戦国ならば、有力な武将となったであろうことに疑いのない人材である。


しかしながら、付与されたあだ名は人殺し多聞丸。

その凄絶な渾名の理由は、戦略を第一に考え、自らも含めて兵を駒として捉え、最大効率で運用し、戦略目標を達成するために躊躇いがない為、反面的にそのような評価を受けることとなった。

将棋で例えると、詰将棋の捨駒であり、捨駒をしなければ勝ちは無く、それ以上に駒を消耗するものである。

本当の将の器とは、兵を愛し、必要とあらば自らを含めて兵を捨てる覚悟のある者なのだ。


空母蒼龍と飛龍は、空母赤城、加賀、龍驤を参考に建造された中型高速空母である。

速度は両艦時速約64キロメートルの高速を誇り、加賀が時速52キロメートルであることからも圧倒的に速い。


一方で搭載機数は57機と少なく、真珠湾開戦時の蒼龍は

零式艦上戦闘機21機

九九式艦上爆撃機18機

九七式艦上攻撃機18機

飛龍も同じで

零式艦上戦闘機21機

九九式艦上爆撃機18機

九七式艦上攻撃機18機

であった。

しかも連戦に次ぐ連戦により、この最終決戦において搭載機数は半減の状況である。


轟轟轟轟轟轟轟轟!!


吹きすさぶ風の中、飛行甲板には、零式艦上戦闘機隊、九九式艦上爆撃機隊、九七式艦上攻撃機隊の順番でプロペラを回転させて整列し、白服の整備兵が走り回っている。


艦橋上では、発光信号が激しく明滅する!!


「報告します!!蒼龍隊!飛龍隊!全機!!出撃準備完了です!!!」


山口司令官は、艦橋上の見張所に陣取ると、業風を物ともせずに眼下に爆音を轟かせる飛行機群を見詰める。


遠方には、後続の飛龍が高速に伴う水飛沫を上げながら爆進し、甲板上には同様に飛行機群がスタンバイを終えていることが伺えた。


山口司令官は叫ぶ!!

「必ず敵空母をやっつけてこい!!俺も後から行くぞ!!全機!!!出撃せよ!!!」


「全機出撃了解!!!」


「全機出撃!!!全機出撃!!!」


旗手が手旗を振る!!


先頭の零式艦上戦闘機隊隊は、加速を始め、華麗に発艦してゆく。


飛行甲板の両脇にある待避所と対空砲銃座からは、兵達が激しく帽子を振って見送る!!


皆が戦果と、何よりも生還を心から祈り叫ぶ!!


飛行機群は、一機一機、次々と本来の住処へと翼を並べ始める。


零戦隊、艦爆隊と次々に発進し、最後に酸素魚雷を搭載した艦攻隊が重々しく飛び立つと、空中で集合し、翼を振って出撃していった。


攻撃目標は、敵空母サラトガ。


索敵機から、空母サラトガ発見の報告がもたらされたのはつい先程の事だ。

山本五十六聯合艦隊司令長官の読み通り、敵空母は現れた。


山口司令官も、山本司令長官と同様、戦前には武官としてアメリカに渡った経験があり、アメリカの国力、アメリカ人の考え方を理解していた。

だからこそ、アメリカは必ず攻撃してくると考え、別動隊を用意したのだ。


しかし、そんな二人の予想を超えたのは、アメリカのたった一隻の空母の攻撃が、加賀を瀕死にさせたことであった。


もちろん、別働隊である山口司令官はそのことを知る由もない。

日本軍の、山口多聞の苛烈な攻撃は、今始まったのである。

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