第203話 空母サラトガのオフェンス

空母サラトガ、ブリーフィングルーム。

今、この場所は、所狭しと飛行服に身を包んだ若い兵達が着座している。

皆、緊張を隠すかのように煙草の煙を身にまとわせ、部屋は紫煙が充満しつつある。


カッカッカッ活ッ!!

ガチャ!!


オーブリー・フィッチ指揮官は勢いよくドアを開けると、待機中のパイロット達を一瞥する。

その眼差しは、覚悟のある者、そうでない者、半々くらいか。

思ったより多いじゃないか。

指揮官は不敵な笑みを浮かべる。


「諸君!!ジャップのCarrier Strike Groupを発見した!!!」


指揮官の背後にある黒板には、ミッドウェー島、そして空母サラトガ、日本の戦艦群が記載されていたが、作戦参謀が日本の空母艦隊の位置を新たに書き加えた。


「ミッドウェー諸島から南東方に約300キロ!そしてここからは南西方600キロの位置となる!!」


搭乗員達がザワザワと話す。

「600キロ!?遠すぎないか!?」


「諸君!確かに遠いが、航続距離に問題はない!しかも、本艦も接近するゆえに、帰路は500キロ付近となる!」


「敵は今、戦艦部隊、空母部隊に別れ、ミッドウェー島を占領しようと攻撃態勢にある!!ハワイ作戦を終えた奴等は、デカい買い物ついでにレジ横の飴玉を買うような気持ちでこの戦いに望んでいる!!」


「奴等は、我々が開戦早々にサンディエゴ海軍基地を出港し、今やこの絶好の攻撃位置にいることなど、夢にも思ってはおらん!!!そう、敵艦隊との距離600キロは!絶好の攻撃位置だと認識してほしい!!距離的に雷撃隊は参加できないが、500キロ爆弾でも大ダメージを与えることは可能だ!!!」


「良いか皆!!!真珠湾がやられた!!戦艦ネヴァダ!オクラホマ!アリゾナ!カリフォルニア!ウエストバージニア!そして、当艦の姉妹艦である、空母レキシントンもだ!!」


バン!!

黒板に記された空母艦隊の位置をその手で叩きつける!!


「諸君!!一撃だ!!!相手は多数だ!!それに対して本艦は一隻!!United States of Americaは!!歴史上やられっぱなしでいたことなどはない!!この一撃は、アメリカの一撃だ!!諸君は!アメリカの一撃となれぃ!!!以上!!」

フィッチ指揮官は、その声を轟かせ、アメリカの口上を終えた。


矢継ぎ早に作戦参謀が締める!

「質問は!?ないな!それでは10分後出撃とする!!!Good luck!解散!!!!」


「Good luck!」

ブリーフィングが終わる頃には、全員の顔付きが変わり、不敵な笑みに変わっていた。


草野仁は、やはり只者ではなかった。



艦橋上のデッキにあがると、空母サラトガは風上に向けて爆走している。

飛行甲板には、攻撃隊隊長のジミー・サッチ中尉搭乗のグラマン F4Fワイルドキャット戦闘機2機と、ブリュースターF2Aバッファロー戦闘機14機の戦闘飛行隊16機。

後方にはダグラスSBDドーントレス急降下爆撃機43機の爆撃飛行隊がエンジンの轟音を轟かせながら整列する。

攻撃隊は合計59機。これが現在のアメリカ合衆国の最大戦力といっても過言ではない。


ブリーフィングを終えたパイロット達が搭乗を終えると、合図してくる。


フィッチ指揮官が頷き、発令する!

「全機発艦せよ!」

「全機発艦了解!」

まるでF1のスタートのようにシグナルが青になり、手旗が振り降ろされる!!


攻撃隊隊長のジミー・サッチ中尉搭乗のグラマン F4F以下、全機は高い集中力を持って、異常なく発艦したのであった。


「全機発艦終了しました。指揮官。」

遠く小さくなる編隊を見送りながら答える。


「うむ。」


「いきなりの実戦、急降下爆撃の訓練も、空中戦の訓練も、十分とは言えない状態でしたが、大丈夫でしょうか。」


「まあな。急すぎるのは確かだよ。しかし、近眼の日本軍でも出来たのだ、我々に出来ない訳がないじゃないか。」


そう、開戦時のアメリカ合衆国は日本を完全に舐めてかかっており、その日本バイアスはオーブリー・フィッチ指揮官をしても、解けきってはいないのであった。

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