第201話 12月20日、Attack on Midway

轟轟轟轟轟轟轟轟!!

空母加賀は、ブラウン・カーチス式タービンを高速回転させ、波をかき分け、風上に向けて全力疾走する!


吹きすさぶ風の中、飛行甲板には、零式艦上戦闘機隊、九九式艦上爆撃機隊、九七式艦上攻撃機隊の順番でプロペラを回転させて整列し、白服の整備兵が走り回っている。


艦橋上では、発光信号が激しく明滅する!!


「報告します!!翔鶴隊!瑞鶴隊!全機!!出撃準備完了です!!!」


南雲司令長官は、艦橋上の見張所に陣取ると、業風を物ともせずに眼下に爆音を轟かせる飛行機群を見詰める。


遠方には、後続の翔鶴瑞鶴が高速に伴う水飛沫を上げながら爆進し、甲板上には同様に飛行機群がスタンバイを終えていることが伺えた。


整列する各機の搭乗員は、凄まじい気迫ももって南雲司令長官を見詰めている。


南雲司令長官は思う。

「真珠湾出撃の際は、私も頭が真っ白になってしまい、無我夢中でよく覚えておらんかった。しかし、この勇ましいことよ。こんな見事なまでの出撃を指揮することができるとは、海軍冥利に尽きる。」


大日本帝國が生み出した、世界最強、世界最大、最強練度、最高規律、意気衡天、太陽系第3惑星地球最強の飛行兵器群を見渡し、その令を発する!!


「全機!!!出撃せよ!!!」

「全機出撃了解!!!」

「全機出撃!!!全機出撃!!!」

旗手が手旗を振る!!

先頭は零式艦上戦闘機隊隊長、志賀淑雄大尉機だ。

整備兵は輪止めを素早く外すと、緩やかに、そして徐々に零戦は加速してゆき、隊長機は大鷲の如く発艦してゆく。


飛行甲板の両脇にある待避所と対空砲銃座からは、兵達が激しく帽子を振って見送る!!


「頑張ってこいよ!!!」

「頼んだぞ!!!!」

「生きて帰ってこい!!!」

「待ってるぞ!!!」


皆が戦果と、何よりも生還を心から祈り叫ぶ!!


飛行機群は、一機一機、次々と本来の住処へと翼を並べ始める。


零戦隊は上空で編隊を組みながら艦隊上空を大きく旋回し、後続の集合を待つ。


次は艦爆隊も同様に空中集合する。そして最後に500キロ爆弾を抱えて、一番重量のある艦攻隊が次々と飛び立ち、やがて最後の九七式艦上攻撃機が出撃していった。


全機事故なく出撃できるのも、凄まじい訓練を乗り越えた熟練兵ゆえのものだ。


全隊全機、空中集合を終えると、ミッドウェー島に向けて進軍を開始してゆく。

やがてその群れは光点となり、そして水平線の向こうに消えていった。


空母は船速を落とし、飛び立った海鷲との合流地点に向けて、緩やかに移動を開始する。


空には、直掩の零戦隊が数機舞い、飛行甲板にはエレベーターで残りの直掩機が並べられ始めた。

甲板員に休む暇はない。


大日本帝國は、世界に先駆けて、革新的に、見事に、空母という戦略兵器を集中運用しているのである。


聯合艦隊司令長官山本五十六の戦略は、将棋でいえば、駒に新たな命を吹き込み、戦いの盤面に新局面を創り出したのであった。


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