第199話 ミッドウェー前夜

空母加賀は堂々と、厳かに、ポリネシアの波濤をかき分けて進む。


後続に続くのは、空母翔鶴瑞鶴の2艦で、二等辺三角形の陣形を組んでいる。


ハワイ解放作戦の後、空母赤城はハワイ女王国に転籍したため、空母加賀が新たに大日本帝國海軍空母機動部隊旗艦となり、第一航空艦隊司令長官、南雲忠一中将が座乗することとなった。


一般的に、空母加賀は空母赤城の2番艦的な印象があるが、空母としての能力は加賀の方が勝る部分も多いのである。


命名から推察できるとおり、山の地名由来の赤城は巡洋戦艦の改装空母、国名由来の加賀は戦艦の改装空母である。


最大の違いは速力で、赤城は最大速度時速約58キロメートル。加賀は、約52キロメートルであった。


その速力差がネックとなり、赤城が旗艦となったのだが、それ以外の能力では加賀が秀でており、加賀は最大の格納庫面積があり、最大搭載機数は103機。 航続距離は18,500キロメートルである。

一方赤城の最大搭載機数は91機。 航続距離は15,000キロメートルである。


開戦時の艦載機である、零式艦上戦闘機、九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機の運用では、加賀の速力でも何ら支障はないため、実際に真珠湾攻撃の立案では作戦案として、加賀、翔鶴、瑞鶴の3艦のみで実施する案が検討されたほどであった。



その空母加賀の艦橋では、南雲司令長官以下、幹部が揃って作戦会議を行っていた。

源田実参謀が南雲司令長官に話しかける。

「事前の情報と索敵によれば、ミッドウェー島に駐留する航空戦力は、PBYカタリナ哨戒爆撃機12機です。新たな戦力補強の情報はありません。」


「うむ、そうだな。」

第一航空艦隊司令長官、南雲忠一中将は、制帽を少し浮かせて額の汗を拭う。

坊主頭に浮きでる汗は、少し神経質さも伺えるところである。


南雲長官は、改めて自分自身に確認させるように話す。

「山本長官が我々に課した命令は、ミッドウェー島の爆撃、そして打撃艦隊、上陸部隊の防空である。」

「艦爆は250キロ爆弾、艦攻は500キロ爆弾で全機爆装せよ。」

「ハッ!全機爆装了解です、これで搭載の爆弾は使い切ることとなりますがよろしいでしょうか。」


「うむ、構わん。この一撃に全力を注ぐのだ。」


「はっ。現在の天候は晴れ、風速は8メートルです。今後も好天の予想で作戦に支障はありません。」


「うむ、攻撃隊発艦は、〇六〇〇時!変更はない!!」


「攻撃隊発艦は、〇六〇〇時!了解しました!!」



一方、新たに第一艦隊旗艦となった戦艦扶桑には、山本五十六司令長官が座乗し、戦艦伊勢、日向、山城、空母瑞鳳、重巡洋艦鳥海、最上、三隈、熊野、鈴谷等を従えて一路ミッドウェー島に爆進している。

戦艦大和という世界最大の艦影はないが、なおもこの打撃艦隊は世界最大の威容を誇っていた。


夜闇のなか、扶桑艦橋の階下にある作戦室では、山本五十六と黒島亀人参謀が将棋を指している。


パチッ

「長官、明日はミッドウェー突撃ですから、お早くに休んでいただきたいですな。」


・・・・パチッ

「わかっておるよ、しかし、作戦も大詰めだ。もう私にできる事はない、将棋を指すことくらいしかな。」


パチッ

「そんなわけ、まあそうですけども」


パチッ

「フフフ・・ハハハッ」


パチッ

「宇垣参謀長、どうしてるかな」


「はい、最後に挨拶された折の参謀長の表情、本人は隠したつもりのようですが、かなり喜ばれておりました。ハワイ女王国の艦隊司令長官となり、戦艦大和に乗り続けられるということで、つまるところ、鉄砲屋の本懐ですかな。」


パチッ

「フフフ・・・その姿が目に浮かぶよ。さて、手はず通り、夜明けには南雲さんが空撃をしてくれるだろう。」


「はい、空母部隊はその一撃で弾切れとなります。その後は防空に専念してもらいます。」


「そうだな。弾切れではやむを得ん。」


パチッ

盤上の形勢は山本有利である。


「・・・ならば!」

パチッ

黒島参謀は、山本陣地内に駒を打つ。

「ほう、良い手だ、空中戦だな。」


・・・・・山本はしばらく考える。

黒島も考える。形勢逆転に成功したように感じている。


・・・パチッ

「これでどうかな」

山本の投じた一手は、そんな黒島の起死回生の手を読んでいたかのような、見事な返し技であった。


「うーむ、長官、読んでいましたか?」


「フフフ、さてな、我々は、正々堂々と戦うだけだよ。」


こうしてミッドウェー攻略作戦が幕を開けようとしていた。


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