第198話 ヨコハマラグーン再訪

ドゥラ銅鑼ドゥラ銅鑼ドゥラ銅鑼ドゥラ銅鑼!!

ハーレダビットソン、ナックルヘッドエンジンの規則正しい重低音が響く!


そのバイクは、道路の海岸沿いにバイクを停めると、操舵手はヒラリと降り立つ。


そこは岩場が続く岩礁地帯。ヨコハマラグーンに一番近い道路沿いである。


その男は使い込んだ日本海軍航空隊の飛行服を身に纏い、その着こなしからも熟練兵であることは一目瞭然で判る。

その使い込んだ飛行服の腕部には、ハワイ女王国旗が縫い付けられており、そこだけ綺麗に光り輝いて見える。


新海少尉は飛行眼鏡を上げる。


「ここだな、ヨコハマラグーンは。教えてもらったノアの家は誰も居なかった。もしかしたらあのアウトリガー船で海に出ているかも知れない。」


一人呟くと、後部に括り付けていたバスケットを持ち、僅かに見えるラグーンまでの道を辿る。一度通ってなければ気が付かないような道だ。


改めて、ヨコハマラグーンはノアの秘密基地だったことを感じる。


岸壁に回り込み、ラグーンの入口に辿り着く。波は穏やかで、優しく岩肌をなめる。


「オォーーーーイ!!」

耳を澄ませるが波の音しか聞こえない。


「オォーーーイ!!ノアァ!!!」

今度は全開で叫ぶ!!

・・・ザザァ・・・・・・ザザァ・・


「オォーーーイ!!ノアァ!!!居るなら返事してくれ!!」


「ケオケオォー!!」


・・・ザザァ・・・・・・ザザァ・・


「ソウだよナ・・・・」


新海はそれでも希望を捨てず、懐中電灯で足元を照らしながら慎重に進む。


少し進むと、不思議なことに中から光が差し込んてくる。


なんて幻想的な空間なんだ。


そしてラグーン内に到着する。中は少し広くなり、波の音が優しくこだまする。

ノアのアウトリガー船は、砂浜に繋留されている。最後に見た時と同じ位置なので、動いていない様子だった。


天井からはちょうど光がリクライニングチェアに差し込み、主の居ないチェアは寂しそうに佇んでいる。


新海はリクライニングチェアを撫でる。ノアは来ていないのか。


そして光が当たらない傍らの丸テーブルに、手紙を見つけた。

バスケットをテーブルに置くのももどかしく手紙を手に取り、光にかざす。


宛名には「For my darling sora」と書いてある!!

新海は急いで封筒の蝋を剥がして開ける!!

文面は英語で書かれている。


「親愛なるソラへ、あれから無事でしたか?私はあなたのことが心配で夜も眠れません。一刻も早くお会いしたいですが、私もあれから天地がひっくり返るような事情があり、ここの近くの家ではなく、訳あってホノルルの屋敷に、お母さん達と住むことになりました。ケオケオも一緒です。今後は、手紙をホノルルペンサコラ通りの郵便局に預けてください。宛名はリチャーズストリート、ノアと書いてくれれば大丈夫です。私もSora宛に手紙を預けます!必ず受け取ってください!早くあなたに会いたいです。ノア」


新海は何度も読み返す。

本当によく見ると気が付いた。

薄く唇の跡がある、よな?

そして手紙の匂いを嗅ぐ。深呼吸する。

蝋の香り、インクの香りだけでなく、ノアの香りを感じた。

ものすごく勇気が湧いてくる!


「ノア・・・・この手紙は、そんなに日は経っていないはずだ。昨日とか、一昨日とかかな?とにかく、このバスケットとビーフジャーキーは置いていこう。ナイフは、まだ返せないな、私が使わせてもらうよ。」


「郵便局か、勤務時間には間に合うな、急いで行ってみよう。」


新海は手紙を大切にポケットに入れると、ヨコハマラグーンを後にする。


しかし立ち止まり、念の為に手紙を書き残すことにして、サラサラと簡単な手紙を書くと、バスケットの中に手紙を入れ、一人頷いて再び歩き出すのだった。


後ろは振り向かない、気持ちは通じたのだ。

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