第197話 出撃待機

真珠湾、パールハーバー、ハワイ語では、Wai Momi(ワイ・モミ)と呼び、真珠の水域と呼ばれる美しい湾は、アメリカの、アメリカによる、アメリカのための軍港として作り変えられ、ハワイの真珠は失われて久しい。


その軍港も、今は日本軍の攻撃で沈没したアメリカ軍艦や、流れ出した重油等で湾内は汚され、軍港としての機能も半減してしまっていた。


ハワイ女王国が誕生して数日、オアフ島は混乱の渦中にあった。女王の宣言通り、同国の誕生に異を唱える政治家、軍人や白人を中心とした人々は、マウイ島に移住するため臨時往復船で次々に旅立っていった。


素直に移住を決めた者は少なかったが、日本軍の統制下で大きな反発には発展せず、順次島を離れていったのである。


一方で、島に残る判断をした者達も多かった。ハワイ系、日系が中心だが、白人も一部残留し、ハワイ女王国国民となったのである。


同時にカイヒカプマハナ女王は、自国軍兵の募集を広く行った。


大日本帝國陸軍第25軍、第5師団及び第18師団の約3万の将兵は、戦艦大和等と同様にハワイ女王国陸軍として編入されたが、諸外国からすれば日本軍の事実上の占領行為と見られてしまうため、自由意志による建国を表明するためには、自国民の部隊創設こそ真の独立に必要なものであった。


これにはアメリカ陸軍の日系人兵士の半数が参加を表明したが、半数はアメリカ陸軍の継続を望み、オアフ島を離れたのであった。


ハワイ在住の日系人にとっては、日本とアメリカの戦争は、どう転んでもマイナス要素しかない極めて面倒な問題であり、その意見は大きく別れた結果、二手に別れることとしたのであった。


残りは、人数は明らかにされなかったが、ハワイの歴史的経緯に理解を示し、ハワイを愛したアメリカ軍兵士がハワイ女王軍に転籍した者が居たのも確かであった。



一方、山本長官率いる大日本帝國海軍は、戦艦伊勢、日向、扶桑、山城、空母加賀、翔鶴、瑞鶴、蒼龍、飛龍等の主力艦隊は次々と補給と再編を終え、日本への帰路についた。


聯合艦隊は帰路途中であるが、本作戦最終目標として最後の力を振り絞り、ミッドウェー島を攻略する予定であった。


ハワイ女王国軍の軍属となりオアフ島に残った空母赤城と同航空隊は、空母寄港中は離発着が出来なくなるため、航空隊のみヒッカム飛行場に居を移した。


新海達搭乗員は、ヒッカム飛行場において国内の偵察と出撃待機任務に休むことなく従事することとなったのである。


そんなヒッカム飛行場の滑走路の傍ら、芝生に寝転んだ二人と、あぐらをかいて座る一人がいた。


「行ってしまいましたね、みんな」

あぐらの男が西の空を眺めながら呟く。

空はどこまでも晴れ渡り、日本まで見えるような気がする。


「そんな寂しそうに言うなよ、神鳥谷。こっちまで寂しくなるじゃねえか」

体格の良い男が寝転がり、煙草をふかしながら答える。


「新海小隊長、良かったですね、気にしていた戦艦大和の偵察員、鷹村一飛曹と加藤一飛兵が無事だとわかって。」


「・・・・うん・・・」

新海も寝そべって正にうわの空だ。


「なんか、浮かないですね、少尉!」

「怪しい!怪しいです!小隊長!!」


二人は新海の煮えきらない反応に苛立ち、その顔を覗き込む。


三人は至近距離で見つめ合うと、新海は耐えきれずに体を起こす!


「わかった!わかったよ!言うよ!!隊長には口外厳禁だと言われてしまったんだが、お前たちには言いますよ!!でも本当に内緒だぞ!?」


「モチロンであります!!」

「モチのロンであります!!」


「モチのロンって言ったな!絶対に言うだろ!」


「申し訳ありません!我々は絶対に口外しないことを誓います!!天地神明に誓います!」


「・・・・なんか、信じられない気がするが、どのみち話そうとは思っていたんだ。おまえらには大体の話はしたけども、実は協力者は、女性なんだ。うん。・・・・ノアっていう、女の子なんだよ・・」


「やっぱり!!!」

「くそー!!!まさか少尉がぁ!!!そんなバカなぁ!!!!!」


「何がそんなバカなだぁ!俺にだってそういうのはある!!」


「そういうのって?!どういうの?!」


「うーぅー!!話すからそれ以上近寄るでない!!」


こうして新海は、二人にノアとの出会いから別れまで、接吻以外の出来事を話したのだった。


ハワイは、なにはともあれ、アメリカは戦力低下で反撃の武力行使は行われず、結果的にハワイ女王国の運営は順調に滑り出し、一時的に平和を取り戻したのであった。

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