第189話 山本進一等兵の突撃

小隊長が叫ぶ!!!

「恐れるな!!!声を出せ!!」


「一!一!一、二!」

「ソウレ!」

「一!一!一、二!」

「ソウレ!」

「歩調!歩調!歩調!」

「ソウレ!」


小隊長の指揮を受け必死に声を張り上げ、駈歩で進むのは、一等兵の山本進、21歳である。

所属は第5師団第21連隊、第1大隊、第1中隊、第2小隊、第3分隊6番員である。


1分隊は、先頭に分隊長、そして分隊員1番員から最後尾11番員までの12名編成である。


駆け足の命令を受けて、全軍は小走りで突き進む、行進は勇往邁進の気概を示し、その速度は1分間に約150メートルと定められている。


部隊の眼前に立ちはだかるのは、アメリカ陸軍スコフィールド基地、フェンスや鉄条網で覆われ、その奥は塹壕や土塁が横に延びており、ついさっきまでは、各種の銃砲から反射される光がキラキラと輝きを放ち、それは多数の守備兵が、銃砲を構えて待ち構えていたのだ。


しかし、先程のどデカい艦砲射撃と大爆発、更に数は少ないが味方からの野砲の砲撃も加わって、敵基地全体は黒煙に覆われ、敵陣からの砲撃も、付近には着弾無く、今のところ思ったほどの圧力を感じなかった。


山本進一等兵は、初陣である。

12人いる分隊の中では下から4番目の立ち位置だ。

先頭を行く分隊長は本村軍曹、剣道の有段者で、銃よりも軍刀の手入れに余念がない。必殺の足払いは天下一品で師団でも随一の強者だ。

続く隊員は、1番員の齋藤上等兵を筆頭に、中華戦線で戦い抜いてきた歴戦兵5名が居り、山本一等兵ほか6名が初陣組であるが、分隊のなかに弱い部分が出来ないよう均等に配置されるため、山本一等兵は真ん中6番員の配置であった。


そして行軍の兵達は、大きく声を出す!!

常にそうするように教育を受けた結果であり、皆で声を出して、歩調を合わせることこそが、兵士が戦争の恐怖に打ち克つための最良の方法なのだ。



敵陣まで1500メートル!!

各大隊、各中隊はそれぞれの隊列を維持しつつ、目標に向けて突き進む!!


座ッ!座ッ!座ッ!座ッ!座ッ!座ッ!座ッ!座ッ!


ガ我亜亜亜亜運!!!


弩華亜亜亜亜亜亜亜亜亜吽!!!

弩華亜亜亜亜亜亜亜亜亜吽!!!

敵軍の砲撃が降り注ぎ、運悪く直撃して吹き飛ぶ兵士達。


「衛生兵のみ対応せよ!!隊列を乱すな!!!」

小隊長が叫び、伝令が復唱する!!


衛生兵が駆け寄るが、隊列を乱さず兵は突き進む。


「一!!」「ハイ!」


「二!!」「ハイ!」


「三!!」「ハイ!」


「四!!」「ハイ!」


「一!二!三、四!」「一!二!三、四!」「一!二!三、四!」「一!二!三、四!」


「我ら精鋭!!第5師団!!」「精鋭!!第5師団!!」


敵陣まで1300メートル!!

座座ッ!座座ッ!座座ッ!座座ッ!座座ッ!座座ッ!座座ッ!座座ッ!

何処までも整然と駈歩しで突き進む!!

度禍亜暈!!!度禍亜暈!!度禍亜暈!!!度禍亜暈!!

着弾のたび兵が吹き飛ぶ!!!しかし止まらない!!!

もちろん怖い!誰であっても恐怖する!しかしその精神を、培ってきた団結力、規律で制御するのだ!!


敵陣まで1200メートル!!

山本一等兵もただひたすら声を出す!!周りの景色は同じ!!いつもの仲間達!いつもの分隊長!!!いつもの小隊!!!


これが戦争?敵?考える余裕なんてない!!


打打打打打打打打打打打!!!!打打打打打打打打打打打!!!!打打打打打打打打打打打!!!!


アメリカ陸軍陣地から、ブローニングM1917重機関銃の凄まじい弾幕が撫で斬りしてゆく!!!

凄まじい威力だ!!!4分隊員が何人か血しぶきを上げて倒れる!!


素早く小隊長が命令する!!

「駈歩匍匐前ヘ!!!」

「駈歩匍匐前ヘ!!!」


全隊員は素早く匍匐前進に移る!!


「目標敵機関銃火点!!!撃テ!!!!!」


山本一等兵は、射撃成績優秀者のみに貸与された九七式狙撃銃を構えながら、滑らかな動きで伏射姿勢に入ると、九七式狙撃眼鏡に敵陣のマズルフラッシュを捉えた。

ハァ ハァ ハァ ハァ フゥー

華亜亜庵!!

呼吸を整え、僅かに平準となった瞬間に引き金をシンクロさせる!!!!


手応えを感じた!それはどういう訳か、人間の狩猟本能なのか、命中した瞬間、それが命中したと何故か理解できるのだ。


事実、敵陣の機関銃音がパタリと止む。


「やったな!!」

分隊長が振り向いてくれた!山本一等兵の発砲は、他の隊員よりも少し遅れたので、皆が気付いたのだ。

「やりました!!!」

「よし!!行くぞ!!!声を出せ!!!」

全隊が再び駈歩に移る!!


「一!一!一、二!」

「ソウレ!」

「一!一!一、二!」

「ソウレ!」


敵陣まで1000メートル!!


すると!いたるところで突撃ラッパが吹き放たれる!!


各部隊の隊長は皆!!軍刀を高く掲げる!!突撃の号令が来る!!!


「突撃に進メィィィィィ!!!」

全員で復唱する!!!

「突撃ニィィィィィ!!!!」


「突ッ込メェェェ!!!!」

軍刀を振り下ろす!!

復唱とともに、兵は放たれた火矢の如く攻撃に移る!!!!

「突ッ込メェェェ!!!!」「突ッ込メェェェ!!!!」「突ッ込メェェェ!!!!」「突ッ込メェェェ!!!!」「突ッ込メェェェ!!!!」「突ッ込メェェェ!!!!」

「オラオラオラオラ!!!!」

「奇エエエエイ!!!!!」


各員が、鬨の声を上げて突ッ込ム!!!突ッ込ム!!!突ッ込ム!!!突ッ込ム!!!突ッ込ム!!!突ッ込ム!!!突ッ込ム!!!


突撃時は、大体小隊の単位で纏まりながら、隊員は相互の姿を確認しつつ、猛烈果敢に突進!!格闘戦に挑まんとする!!!。


各兵は分隊から逸脱しないよう、主に分隊長の突撃及び射撃の反復互用に続ながら、突撃を敢行する!!


事ここに至れば敵の射撃、砲撃、手榴弾に会するも断乎突進すべし!!!


敵陣まで九百メートル!!

ここより幾百秒、兵は生と死のルーレットに自らを委ねつつ、敵にはそれ以上の死を与えようとする!!!


敵陣まで八百メートル!!七百メートル!!六百メートル!!五百メートル!!


奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅奇ュ羅!!!


山本一等兵達の左方から、九七式中戦車1両と、九五式軽戦車3両が主砲を放ちながら突撃してゆく!!


「第2小隊ァィ!!!」

「戦車隊に続けェェィ!!!」

小隊長が叫ぶ!!!

「ツヅケエ!!!!!」「オラオラオラオラ!!!!」「奇エエエエイ!!!!!」


敵陣の攻撃は粉砕される!!!


敵陣まで四百メートル!!


敵陣まで三百メートル!!

九五式軽戦車1両が爆散!!!

だが戦車隊がアメリカ軍の攻撃を引き受けてくれており、突撃兵への攻撃は薄い!!!


敵陣まで弐百メートル!!


敵陣まで百メートル!!!


分隊長が叫ぶ!!!

「ガハハハハハハ!!!敵は崩壊しつつあるぞ!!!刀の錆にしてくれるわ!!!」


山本一等兵は全力で走りながら、ただただ必死に追従する!!

分隊は高橋一等兵が負傷落伍した以外は問題なく、まるで銃弾が避けてくれたかのように敵陣に到達しようとしていた!!


目の前には既に味方が塹壕に飛び込んで次々に敵兵を刺殺している!!


俺達もあと少しだ!!俺達は勝つ!!!

「天皇陛下、万歳!!!!」

誰かか叫ぶ!!

「天皇陛下、万歳!!!!」

自分も叫ぶと、体中から、力が、気力が漲る!!!

そうだ!!俺達は!!天皇陛下のため!!みんなのため!!!やってやる!!!


山本一等兵は、敵陣の奥からこちらを狙う敵兵に気付くと、片膝を付いて膝射ち姿勢をとり、骨感覚で全身を固定すると、わずか数瞬で敵兵を撃ち抜くのであった。


ここに、日本の狙撃エースが、覚醒を果たしたのである。

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