第190話 司令部の死闘

佐伯隊長を中心とした、騎馬中隊100騎は、若干数を減らしたものの、

想像以上に少ない損害で敵陣の突破に成功した。


いくつもの敵陣を駆け抜け、激戦地は既に後方、まるで雷雲を突き抜けたかのように空白地帯に至る。


すると目の前に現れたのは、4階建ての白亜の建築物。

屋上には3本のポールが空に伸びており、中央にアメリカ国旗のFlag of the United States、左側にアメリカ陸軍旗、右側にハワイ準州旗がたなびいている。


一目で解る。これこそが、アメリカ陸軍、スコフィールド基地本部庁舎だ。


佐伯隊長は手綱を緩め、右手を上げて全軍に示すと、麾下の騎馬中隊も速度を緩め、全隊が並足へと移行する。


そして佐伯隊長は単騎後方を振り返ると、従う精鋭達は隊長を取り囲むように集う!!


「皆の者!!我々は敵陣の突破に成功した!!敵は混乱しており、後続部隊も続々と突破してくるであろう!!」


「しかし!!敵の増援部隊が到着すれば、この勝負はまだ判らんようになる!!」


「この戦を決するのは、敵本陣の陥落である!!!目の前の敵司令部を陥落させ!!あの3本の旗を引きずり落とし!!我らの旗を!!大日本帝国国旗とハワイ王国旗を掲げて!!敵味方全軍に!!我らの勝利を知らしめよ!!!!」


「応応応応応応応応応応応応応オオオ!!!!!」


「目標は第一に司令部の制圧!!第二に敵司令官の捕縛である!!!!ここが我等大日本帝国陸軍の正念場と知れ!!命を惜しむな名こそ惜しめ!!全軍正面にて下馬し、各小隊ごとに突入せよ!!」

全隊員の表情が引き締まる!!

「了解!!!!!!!」


「中隊長指揮!!進めィィ!!!!!!!」


中隊長は命令を受けると、素早く各小隊長に指示する!!


「敵に時間を与えず、一気に占領する!!第1小隊は1階、第2小隊は2階、第3小隊は3階、第4小隊は4階だ!!抵抗する者に容赦は無用!!!各小隊制圧後は小隊判断で応援に回れ!!!」


「了解!!」

「脱(ト)レ剣!!」

「脱(ト)レ剣!!」

一〇〇式機関短銃は、着剣時全長126cm、通常時で87cmであり、屋内戦闘では取回しに不便かつ味方を傷付ける恐れが高いため脱剣するのが基本だ。


「弾倉交換!!弾込め!!」

「弾倉交換!!弾込め!!」


牙着牙着!!牙着牙着!!牙着牙着!!


各隊員は、敏活適正な仕草で携行していた新たな30発入り弾倉に入れ替えると、ボルトを引いて8ミリ南部弾を装填する!!!


「征け征け征け征け征け!!!」


各小隊は分隊長を先頭に次々と正面の扉から突撃して征く!!!


いよいよアメリカ陸軍スコフィールド基地司令本部施設内を舞台とした、屋内サバイバル戦が幕を開ける!!!


挑むのは一〇〇式機関短銃を装備した最強大日本帝国陸軍第25軍第5師団、エリート部隊佐伯挺進隊から更に選抜された精鋭中の精鋭約80名。


対するは総司令官、ウォルター・キャンベル・ショート、ハワイ方面陸軍司令長官以下、司令本部要員約200名、警護部隊約150名であった。


武装は、警護部隊はスプリングフィールドM1903小銃とコルト1911拳銃を装備し、手榴弾は装備していない。

本部要員はコルト1911拳銃のみ装備する者が多く、小銃は未だ武器庫内で、装備する時間的猶予も無かったのだ。

いや、正確に言えば、時間的猶予はあったが、誰もが、まさかこの短時間で正面から突破されて施設内での戦闘が始まるなど、想像もしていなかったのだ。


挺進兵は機敏に駆ける!!

建物は、正面を抜けるとすぐに階段が伸びる!各小隊は目で合図して駆け上がってゆく!!


弾弾!!


最初に接敵したのは1階の1小隊だ!

小銃を持って飛び出してきた敵兵を一瞬の判断で撃つ!!敵は血飛沫を上げて吹っ飛ぶ!!


「Jap!!!Jap!!!」

敵が吠える!

弾弾!!弾弾!!弾弾弾弾!!弾弾!!弾弾!!


敵の主力である警護兵は1階と2階に大半が駐留していた!!警護兵も即座にバリケードを作り反撃する!!


しかし!スプリングフィールドM1903小銃はボルトアクションで一発一発に時間がかかりすぎ、挺進隊の素早い動きに照準が間に合わない!!


「第1分隊手榴弾!!」「了解!!」


即座に隊員達は胸の雑嚢から九七式手榴弾を取り出すと、安全ピンを抜いて起爆筒を地面に叩きつけ、1秒ためて投擲する!!


感ッ!華感!

感ッ華感!!!


屋内にゆっくりとした放物線を描くように投擲された手榴弾は、天井に跳ね返りアメリカ兵達の頭上に到達!!その瞬間!!


度火亜亜亜亜!!度火亜亜亜亜!!度火亜亜亜亜!!度火亜亜亜亜!!


アメリカ兵は破片を顔面に受けて吹っ飛ぶ!!叫ぶ!!

「グワアァァァ!!」


そして爆煙のなか、隊員は突入する!!


弾弾!!弾弾!!弾弾弾弾!!弾弾!!弾弾!!


正確な射撃!!

舞い上がる血飛沫!!飛び散る肉片!!


弾弾!!弾弾!!弾弾弾弾!!弾弾!!弾弾!!


弾幕は一〇〇式機関短銃が圧倒的!!


機動力!攻撃力!士気!練度!敵ではない!!次々に部屋を陥落させる!!


「Weapon down!!!Weapon down!!!」


「降伏しろ!!Surrender!!」「Surrender!!」


主要な警護員詰所を制圧した後は、唯一使える英語で降伏勧告する!!


そのあまりの制圧速度、警護員の殲滅速度に、その他の本部要員は混乱するばかりで、次々に武器を捨て降伏してゆくのだった。


1階の制圧にかかった所要時間は、約10分間。日本兵は5名死亡8名負傷、アメリカ兵は25名死亡、50名が負傷で、負傷者を含め約100名を武装解除させ制圧に成功した。


2階の抵抗も一階と同規模であり、若干苦戦するも第2小隊が制圧、四階についてはさほど抵抗もなく、殆ど捕虜として制圧した。


残すは3階を残すのみ。

3階は、アメリカ兵は廊下に机を並べたバリケードを即席で設置し兵を配置したが、手榴弾と容赦のない弾幕でたちまち殲滅。


3階中央に設置された司令本部室には、奥に司令官室に通じており、その司令官室には、ショート司令長官以下の高級幹部10名が警護兵5名とともに控え、司令本部室には警護隊長以下の精鋭部隊20名が机を倒してバリケードにして守りを構えていた。


第3小隊長は、この司令本部室を残し、3階を制圧。

そこで部隊員に待機させると、佐伯隊長以下、各階から応援も駆け付け完全に包囲が完成する。


そこで、佐伯隊長の指示を受け、英語に堪能な部下が勧告する!!


「我等は大日本帝国軍!!この建物は全て制圧した!!あとはここだけだ!!武器を捨て降伏せよ!!繰り返す!!武器を捨て降伏せよ!!降伏しなければ1分後突入する!!降伏しなければ1分後突入する!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

静寂が続く、数十秒。


「Understood. surrender!」

「降伏する!」


ウォルター・キャンベル・ショート、ハワイ方面陸軍司令長官は、幕僚達の視線を受けるなか、司令本部室に歩み寄り、そう答えたのだった。


アメリカは合理的だ。勝ち目の無くなった戦で無謀な戦闘を継続することは基本的にない。むしろそのような判断で兵を失えば、愚将と言われるだろう。


こうしてスコフィールド基地の頭脳は陥落し、直ちに屋上のポールから、アメリカ国旗、ハワイ準州旗が引き摺り降ろされると、新たに、大日本帝国国旗と、ハワイ王国旗が掲揚されたのである。


そして、それを仰ぎ見たアメリカ将兵は、次々と逃走又は降伏し、ここに、スコフィールド基地を巡る戦いの趨勢は決したのである。


その数時間後、戦場には未だ黒煙が漂うなか、山下奉文司令官以下の司令本部員が厳重な護衛のなか、鎮まった戦場を抜けて、堂々とアメリカ陸軍司令本部に現れた。


山下奉文司令官の風貌は自信と威厳に満ち、庁舎屋上に掲揚された大日本帝国旗とハワイ王国旗に敬礼する。

そして3階の司令本部室をその鋭い眼光で貫くと、威風堂々と庁舎内に足を踏み入れた。


その姿を3階から見ていたアメリカ陸軍の参謀の一人が報告する。

アメリカ軍幹部は捕虜となっても武装解除のみで、監視下なら多少歩き回ることが許されていたのだ。


「来たようです。日本の司令官が。司令長官。」


「そうか。」

ショート司令長官は、煙草を潰しながら聞く。


「どんな奴だ?敵の司令長官は?丸眼鏡の近眼貧弱小男か?」


「はい、いいえ、日本軍の幹部を見るのは初めてですが、身体が大きく我々と変わらないようです、しかし」


「しかし?」


「サムライブレードを腰に付けて、丸坊主で髭を生やしてます。眼鏡はしておらず、裸眼ですが、目付きが鋭く、何て言うか、アジアに居るという、虎みたいな男です。」


「Tiger?」

「YES、Tiger。」

「本当かそれは、話と違うじゃないか、クソ!我々の日本人についての情報で当たっていることなど、一つもないじゃないか!!クソ情報部の奴らめ!!」


そして数分後、司令官室において、ウォルター・キャンベル・ショート、ハワイ方面陸軍司令長官と、大日本帝国陸軍山下奉文司令官が、ここに対面したのである。


同席したのは、アメリカ側は参謀4人と書記、日本側も参謀4人と書記の計10人であった。


日本側は、ハワイのアメリカ軍全軍の無条件降伏を視野に入れつつ、少なくともスコフィールド基地を含む周辺の軍の降伏を司令長官に認めさせることを目的とした。


しかしショート司令長官もしぶとく抵抗して喰いさがる。


しかし最大の問題は、日本軍通訳官の通訳能力が低く、会議は不必要に長引いていた。


山下司令官はそのうち、煙草を吸いながら煮え切らないショート司令長官に、そして何よりも英語の下手くそな通訳を見て、こめかみが痙攣してくるのを感じ、気持の昂ぶりを抑えられずに虎は獰猛に吠えた!!


「通訳ゥ!!!いつまでもその辞書を開くのを止めろォ!!!よいかァ!!・・・」

イカン!冷静に、礼節を忘れるな自分!!


フゥゥゥゥゥ・・・


山下司令官は深呼吸して、ショート司令長官達を睨み据えると、努めて口調を抑えて冷静に話す。


「良いな、通訳。ショート司令長官には、イエスか。ノーか。イエスか。ノーか。それだけ訊けばよいのだ。わからんのか。わかったら聞け。イエスか。ノーかだ。」


ショート司令長官は、山下司令官というアジアの虎の昂る様子を観察し、とりあえず、自分にも兵達にも、紳士的な対応は確約されるようだし、これ以上長引かせることは得策ではないと判断した。


「わかりました。兵達の安全について、捕虜として保証されるならば、スコフィールド基地の武装解除については認めましょう。YESです。」


「しかし我が軍は未だ各地域に十分な兵力がある。そちらのことは範囲外ですな。」


「分かり申した。我等は天皇陛下に誓って、約束を破ることなど絶対に無いことを約束しましょう。」


二人は握手を交わし、ここに、日米初の大規模陸戦、ハワイオアフ島、スコフィールド基地の戦いは、大日本帝国の勝利で幕を閉じたのである。


後に、ハワイの虎と命名された山下奉文司令官による、イエスかノーかは、本人の意志を越え、逸話として語り継がれることとなったのである。

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