第187話 山下奉文司令官と松井太久郎師団長

大日本帝国陸軍、第25軍司令本部では、山下奉文司令官と第5師団師団長松井太久郎中将が艦砲射撃の爆炎と、佐伯挺進隊の騎馬突撃を見届けていた。


松井師団長は双眼鏡を覗きながら

「司令官、申し訳ありません、佐伯挺進隊には一定の裁量権を与えておりましたが、まさかここで突撃するとは・・・・」


「ウム・・・・・落下傘降下の海軍搭乗員を救助するつもりかな。」


「命令違反です!!直ちに引き返させましょう!!」

傍らの参謀達が怒鳴り、司令本部は混乱を見せる。


しかし、山下奉文司令官は沈着にアメリカ軍陣地を見詰める。


敵陣は大きな爆心地が誕生し、アメリカ兵は統率を失い、持ち場を離れようとする者も居て、混乱の様子が明らかに見て取れた。


そして、佐伯挺進隊は、落下傘に向けて、そしてその先の爆心地に向けて突撃を開始しているのである。


こりゃあチャンスだ。

山下奉文司令官は一瞬で決断した。


もともと兵の数は不利、地の利も不利、これで正攻法で勝つのは困難。


これを覆すには、その盤面に予想外の一石を投じ、その機を逃さず持てる力を叩きつけるしかない。

そして、それは今だ。


山下奉文司令官は、第5師団師団長松井太久郎中将にその決意を申し向けた。


「松井師団長、そして参謀諸君」


「ハッ」

松井太久郎中将は即座に理解した。いつもは松井さんと言うのに、肩書で呼ばれた。これは命令ではなく、勅命だと。


「あの零観の搭乗員は英雄だ。見捨てることはできん。更に艦砲射撃で敵陣に大穴が空き、明らかに敵は混乱している。」


「ハッ!・・・・」


「行くぞ。」


「ハッ、行くでありますか。」

松井太久郎中将の額から、一筋の汗が流れる。


「そうだ!参謀!第5師団の布陣はどうか!」


司令官の問いに傍らの師団参謀が答える!


「ハッ!現時点、配置完了は第11及び第21連隊の約6000名です!左翼の第41及び右翼の第42連隊は三分の一程度が配置に着いております!」


「山間部の後背に回り込んだ部隊はどうか!?」


「後背部に向け、敵陣の右側面を秘匿移動中であります!」


「戦車団と野砲兵連隊はどうか!?」


「第3戦車団の戦車第1、第2連隊は配置完了であります!野砲は独立山砲兵第3連隊は数門が配置完了、野戦重砲は未だ移動中であります!」


「わかった!!松井師団長、そして諸君!」


「ハッ!」


「城攻めは敵の3倍の兵力が必要だとする攻撃三倍の法則があるが、後方の第18師団が到達し、全軍の布陣を終えるには12時間以上必要であり、揃っても兵数は3万弱、どのみち正攻法では全く足らん!!!」


「敵とてそれだけの時間があれば陣地を再構築し、増援もあるだろう!!!我々に補給は無く時間経過は不利にしかならん!!」


「そして今!山本元帥の戦艦大和は危険を省みず海岸沿いに接近し、艦砲射撃を加えておる!!!」


「これこそが機!!この機を逃して次は無い!!天皇陛下からお預かりした我が軍の!第25軍司令官として命ずる!!松井師団長以下第5師団の全軍でもって、直ちに総攻撃に移れ!!!」


「ハッ!!!!!」

松井太久郎中将は踵を鳴らして敬礼する!!

そして流れるような動きで回れ右をすると、参謀長以下の師団本部員が固唾を飲んで見詰めてくる。

その表情は、急転直下で理解が及ばない者が多い。それはそうだろうと思う。


松井は自分でも意識していないクセで自らの禿頭を撫でようと右手を伸ばすが、鉄帽をキツく装着していたことに

気付き、鉄帽の角度をあえて少し深くする。


その場の全員が私自身の一挙一投足を見つめてくる。その間数秒、自らの考えをまとめる。


・・・この中途半端な布陣で攻撃を開始するなど、今までの訓練でも、図上演習でも経験はない。本当にこれで成功するのか?しかし山下司令官の仰るとおり機としては今を於いてないとも思える・・・


その時間は日本国の歴史からみればあまりに一瞬、松井太久郎師団長は威儀を正しその顔を上げると、鉄帽のひさしの下の丸眼鏡がキラリと輝きを放った!


「さあ皆の者!軍団長の命令は勅命である!!我らは最善を尽くし、死命を賭して臨むのみ!

よいな!!こんな大戦に臨むことが出来るなど!日本男子として生を受けてこれ以上の誉があるものか!!

全軍に命ずる!これより第5師団は全軍で攻撃に移る!!歩兵連隊は全軍前進!!砲兵は直ちに全力で連続での砲撃を開始せよ!!」


師団長の命令は力強く!半信半疑の幕僚達はみるみるその眼に力を宿す!!


「ハッ!第5師団は全軍で攻撃!!歩兵連隊は全軍前進!!砲兵は直ちに全力で連続での砲撃を開始!!了解しました!!」」


そうと決まれば司令部各員は疾い!!総攻撃に向けて全部隊に総攻撃を命じた!!!


大日本帝国陸軍は中華戦線を乗り越えた精鋭部隊、命令直下一挙に動き出したのである!!

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