第175話 テイクオフ
「ノア?とにかく後方の敵機との距離が開いた!!ここで前の奴を仕留めるぞ!!ノアは弾倉を交換しておけ!!」
「ハァハァハァハァイ・・・・」
新海は前方の機影を追い旋回を深める!!
1周!!
2周!!
頭上に見えている敵機が少しずつ、少しずつ95式OEG式射爆照準器に近付いてくる!!
3周!!
4周!!
零式水上観測機がP12に喰らいつこうと接近する!!
もう少し、もう少しだ!!
キャプテンマクガイアは操縦桿を握りしめ激しいGで顔面の皮膚を歪ませながら、後方からの殺気が強くなってくることを感じていた。
背中がゾクゾクと反応して冷や汗が伝う。
我慢しろ!もう少し!もう少し!
後方の敵機との距離もベスト!!
ここだ!!
「Chance!!」
先程の零観を撃ち落とした必殺技!!!!
「この技は相手がベテランほど掛かる!!チェックメイトだ!ダイヤモンドストールターン!!!」
キャプテンマクガイアは全神経を四肢に集中させ、スロットル、フットバー、操縦桿を絶妙にコントロール!
長年の技術の集大成ともいえる空中機動で、P12は大空を舞う鷲のように空中移動を始める!!
新海が睨む照準器にP12が大きく映り込む!!よし!!!待ちに待った瞬間!!
両手で持っていた操縦桿から左手を離して引き金に手をかける!!!
「喰らえ!!」
弾弾弾弾弾弾弾!!!
発砲すると同時に、前方のP12が急旋回を止めてヒラリと縦旋回に移る!!
しかしその動きは鈍重だ!!!急旋回で失った運動エネルギーは大きく、縦旋回にかける力は僅かしかない!!
好機到来!!!
しかし新海は片手を離しており、再び両手で操縦桿を握り込み追従するのにコンマ2.5秒を要した!!
一瞬見失う!!しかしその次の瞬間には眼前の必中距離に現れるはず!!!
新海は再び引き金に手をかけ叫ぶ!
「さあ姿を見せろ!!!」
その後部座席、ノアは厳しいGに身体を押し付けられながら、両手で円盤型弾倉を取り外すことに成功した!
ガチャ!!
「わっ!」
Gの影響などないかのように飛行服越しに胸が揺れる!
「えいぃ!!」
ノアは一瞬、空弾倉の軽さにアワアワしつつ、無造作に、上か下かも解らなくなっている空だか地上だかにその胸と腕をしならせてポンと放り捨てた!!
放り投げられた空弾倉は不思議なベクトルを与えられてフリスビーのように不思議な踊りを舞いながら重力に引っ張られてゆく!
新海は目の前から敵機が消えたこと、その消え方で、言いようのない嫌な予感がした。
一瞬後、思い出した。過去に一度だけ、この体験をしたことを。
あのときは・・・・そう、坂井先輩と模擬空戦のときだ!!
まずい回避だ!!
キャプテンマクガイアの駆るP12は想定を超えた力を受けて機体をきしませながら空中移動を続けると、数秒後にはP12の照準器に零式水上観測機が大きく捉えられる!!!
キャプテンマクガイアが誇る絶対不敗の必殺技!!ダイヤモンドストールターン!!!
「I win!!!」
そして絶対的必中の瞬間が到来!キャプテンマクガイアが引き金を引こうとしたその瞬間!!!
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!
賀ァァーーーーーン!!!
「捕鯨ィ!!!!!」
キャプテンマクガイアの頭部に円盤型の空弾倉が直撃!!!!
キャプテンマクガイアはのけぞり!そのまま気を失う!
「・・・・・キャプテン!!キャプテン!!キャプテンガイア!!are you OK!?」
マクガイアはハッと我に返ると、錐揉みを始めようとしていた機体を安定させる!!
敵は居ない!!どうなった?顔面が濡れている?右手で額を触れると、右手に血がベッタリと着いて頭部から血が滴っている。
くそ!前が見辛い!!奴は何処だ?!
「奴は後方です!我々の後方に回り込みました!!大丈夫ですか?!」
「大丈夫だ!!クソ!何が起きたかわからんが少し負傷した!!こうなったら、タイダルウェイブアタックで仕留める!サンダース!ジョージ!!!タイダルウェイブアタックをかけるぞ!!!!」
「タイダルウェイブアタック!!2号機了解!!」
「タイダルウェイブアタック3号機了解!!」
3機は急速に接近する!!
まるで展示飛行のように相互の距離は数メートルまで接近!!
そしてそのまま縦方向の宙返りに入る!!
背後に付いた新海も思い切り操縦桿を引き付け追従する!!
さっきの絶対絶命の危機で全身から汗が引かず口の中もカラカラだ!!
「あの密集隊形!!さっき大和機が殺られた技か!!ハワイの高波!!」
ノアが反応する!
「タイダルウェイブアタック!!?マズイわ!逃げて!!」
「逃げる訳にはいかない!!僕は戦って勝つ!!僕と共に戦ってくれノアァ!勝つぞ!アァ!勝つんだ!」
ノアは少し上気しながら答える!!
「ALOHA!!なら、サーフィンで高波に乗るっちゃ!!ハワイの高波はそれはそれは大きいっちゃよ!!!」
「サーフィンで波に乗る!?それだぁ!!!」
新海は思い切り操縦桿を引き付ける!!
グ具具具具具具具具具具ググ!!!
凄まじいGをねじ伏せる!!!
そして宙返りして一周!!今までと異なり、アメリカの3機の速度と旋回半径が大きい?!
3機はおよそ真下に位置しており、最下点に至る数秒後には絶好の射撃位置に付けるであろう!!
「ノアァ!!機銃は準備できてるかぁ!!」
「はい!!準備オッケイよ!!!」
「よし!!僕が撃てと言ったら!真後ろにいる敵機を撃て!!いいね!!」
怖かったら目をつぶってもいい!!!」
「真後ろね!!アイアイサー!!!」
「サーフィンで!!波に乗ることをなんていうんだ?!」
「テイクオフよ!!!」
「テイクオフ?!!そりゃ面白い!!オッケイだ!!」
3機と1機はまるで重なり合うように接近してゆく!!
新海は両手で持っていた操縦桿から左手を離して引き金に手をかける!!!
「喰らえ!!」
弾弾弾!!!!
ガイア大尉は叫ぶ!!
「今だ!!引き潮!!エッブタイド!!」
同時にアメリカの3機が縦列に密集しためま綺麗に急減速する!!
そのタイミングは絶妙で、コンマ一秒も狂はない一糸乱れぬ挙動!!!
さっき大和機はここで大きく前に突出して、一気に討ち取られた!!
「ここだぁ!!!!!」
「!!テイクオフ!!!」
「エッ?テイクオフ?」
新海は躊躇わずに引き付けていた操縦桿を押し、スロットルを戻す!!
機体はエンジンパワーの減少と空気抵抗、揚力の変化で一気に下降する!!
本来であれば失速するような挙動だが、その真下には、Triple starの3機がスリップストリームで再加速するため超密集しているところであった。
頭雅雅雅雅雅雅雅亜!!!!!
二番機のサンダース中尉は、敵機が自らの頭上方向から急速に接近してくるのは解った。しかし、今までの経験上、この体勢となれば敵機はどのように動いても我々の餌食となることは必定であったため、無駄だと、たかをくくっていたのだ。
その敵機は、しかし、全く想像し得ないことをやってきやがった!
そのダサい真下のフロートが愛機の翼をかち割り始め、ようやく理解することが出来た。
「オオ、俺を踏み台にした??!!」
馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚!!!
目の前に近付くバカでかいフロートが彼の見た最後の視覚情報であった。
「ノアァ!!撃てぇ!!!!!」
ノアは意味が分からなかったが、新海がテイクオフと叫んだら下から凄い衝撃がきて目の前にP12が本当に目の前に居て、突然撃てと言われたので条件反射のようにただ闇雲に引き金を引いた!!!
番番番番番番番番番番番番番番番
キャアアアアァァァ!!!!
番番番番番番番番番番番番番番番
頑頑頑頑頑頑頑頑!!
番番番番番番番番番番番番番番番
頑頑頑頑頑頑頑頑!!
キャアアアアァァァ!!!!
番番番番番番番番番番番番番番番
頑頑頑頑頑頑頑頑!!
番番番番番番番番番番番番番番番
馬脚馬脚馬脚馬脚!!!
番番番番番番番番番番番番番番番
馬脚馬脚馬脚馬脚!!!
番番番番番番番!!!!
馬琴馬琴馬琴馬琴馬琴馬琴馬琴馬琴!!!
キャアアアアァァァ!!!!
ノアが力いっぱい引き金を引くと、ルイスタイプ92式7.7ミリ旋回機銃上部の円盤型弾倉が回転し、約10秒間をかけて真後ろに向けて撃ち尽くされた!!!
三番機ジョージ少尉も、敵機が二番機に向けて急速に接近してくるのは解った。しかし、サンダース中尉と同様に無駄だと思っていた。
しかしその二番機か踏み潰されはじめて、ことの異常さに我に返り、咄嗟に数発は撃ったと思うが、次の衝撃は自分自身に向けて銃を撃ちまくっている後部席のやつが、メチャクチャ美人だったことだ!!
こんな美人に銃を向けてはいけないと感じてしまい回避行動をとったが、結局その娘にボロボロにされてしまった。
操作が効かなくなった愛機に、自らの不徳の致すところを謝りつつ、その娘を脳裏に焼き付けて少し幸せな気持ちで墜落してゆくのだった。
新海も95式OEG式射爆照準器大きく映り込んだ目の前のリーダー機に向け、引き金を握る!!!
零式水上観測機に備えられた前方機銃はビッカース式7.7ミリ固定機銃三型改一であり、95式同調発射複装置でプロペラを撃ち抜くことなく回転の間を縫って連続発射される!!
弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾!!!
ウオオオオオオオオオ!!!!
撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃ち尽くすまで撃つ!!!
頑頑頑頑頑頑頑頑頑頑頑!馬脚!頑頑頑頑頑頑頑頑!!馬脚!頑頑頑頑頑頑頑頑頑頑頑頑馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚!!!!!!
「何故だ何故だ何故だ!!・・・何があったァァァァァァ!!!!!サンダース!ジョージ!!頼んだぞ!!」
キャプテンマクガイアは叫ぶ!!!
しかしマクガイア大尉に応える者は居ない。
Triple starの3機は白煙とともに墜落してゆく、地上で数万の将兵が見守るなか、アメリカのいうハワイの三連星は、流星群となって脆くも地上に墜ちたのだ。
ハァハァハァハァ・・・・
「やったぞ・・・やったぞ!ノア!大丈夫か!!」
「ノア!?返事してくれ!!」
ハァハァハァハァ・・・・
ノアは上気しつつも少し青ざめた表情で答える。
「大丈夫よ、私は、大丈夫。」
「本当か?怪我してないか?」
「ええ、大丈夫。」
「ならどうした?怖かったかい?」
「うん、まぁ、怖かったって言うか」
「て言うか?」
「むしろ今のが怖いっちゃ」
ノアの目の前には、垂直尾翼が首の皮一枚のように風に揺られてプランプランしており
「馬琴!!」
ちょうど今、役目を終えてテイクオフしたところだった。
新海はたちまちいうことを効かなくなった機体に焦る!
「ノア!敵か?!機体が言うことを効かなくなった!!」
「うーんとね、違うみたい、私が後ろの縦の羽根、撃って壊しちゃったみたいっちゃね!」
「エエっ!!マジ?!!それマジ?!うわわわヤバい操縦がヤバいぞぉ!!」
新海の零式水上観測機は、垂直尾翼を無くし、更に漏れたガソリンが漏れ出す満身創痍であったが、雨が部分的に上がり、雲の隙間から差した光が機体に当たると、その姿は戦場の空に七色の虹を現出させたのだ。
それを見た地上では日本軍は拍手喝采を送り万歳三唱がこだましてその士気は天を衝く勢いとなり、一方アメリカ軍は唯一の希望を見事に打ち砕かれ、暗い表情で座り込むのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます