第170話 イオラニ宮殿クイーンズスイート
イオラニ宮殿。
1882年にハワイ王であるカラカウア王によって建てられたハワイ王国の公邸で、ヨーロッパの建築様式を採り入れた豪華絢爛な作りでハワイ王国栄華の象徴といえる歴史的建造物である。
歴史的背景は1891年、第7代カラカウア王がアメリカサンフランシスコにおいて51歳で急逝すると、王の妹でありハワイ王国最後の王となるリリウオカラニ女王が即位して居住したが、1893年 アメリカ派によるハワイ革命により在位2年で追放され、カメハメハ王から始まったハワイの君主制は通算98年で終焉を迎えたのである。
元々カラカウア王はアメリカの侵略に危機感をいだいており、そのなかで明治天皇と外交交渉を行うなど、イオラニ宮殿の建築理由はアメリカに狙われてあまりにも脆いハワイ王国の足元を少しでも固めるため、豪華な宮殿でその力を示す意図があったと言われている。
そして現在イオラニ宮殿はアメリカ合衆国ハワイ準州の国会議事堂として利用され、そしてその2階である王室の居住部分には、ハワイ王室、王政関係者が幽閉されていた。
そのクイーンズスイートといわれる、ハワイ王国最後の王、リリウオカラニ女王が使用された一室。
この部屋には二人の女性が居り、朝食をとるところであった。
一人は老齢であるが、椅子に座る姿からも気品を感じさせる女性、先日キンメル太平洋艦隊司令長官、ショートハワイ方面陸軍司令長官、ジョセフ知事からもミセステレサと敬意を払われた女性で、リリウオカラニ女王とも親交の深かったハワイ王室の血統者である。
もう一人の女性も気品と穏やかな雰囲気を纏う40代の女性であり、ミセステレサの卓上にある美しい装飾のカップに紅茶を注ぐところであった。
「ありがとうバージニア、まさかこの部屋で過ごすことになるなんて思わなかったわね。」
テレサは少し力のない微笑を浮かべる。
「はい母様、ショート将軍は最初、私達を逮捕するとか言ったいましたから心配でしたが、キンメル将軍やジョセフ知事が気を遣ってくれたみたいですね。」
「朝食も専属料理人が作ってくれて、本当に昔に戻ったみたい。」
「母様、体調も良くなってきたようで良かったです。でも油断は禁物です。今日も一日安静にしてくださいね。」
「わかっていますよ。おそらく、日本軍とアメリカ軍の戦いが始まるはず、あの森村という日本領事館の人が言ったとおりね。」
バージニアは少し慌てた様子で周囲を見渡し、小声で話しかける。
「母様、その名を話すのはまずいですわ、聞かれたりしたら本当に逮捕されてしまいます!」
「そうね、ごめんなさい気を付けるわ。でも、本当にあの人の言う通りになったら、私達もやるしかないわ。まさかこの歳でこんなことになるなんて考えもしなかったけどね。」
「はい、母様の気持ち、そしてハワイの人達の気持ち、母様がどうしてもやりたいというのであれば、私も。」
「ありがとう。」
「あの娘はどうしてるかしらね。我が家は戦場から随分離れているから大丈夫だと思うけど、大人しくしているかしら。それがとても心配ね。」
「はい、近所のイノウエさんは兵隊に連れられてしまったようですし、あの子一人にすると・・・母としても何かとんでもないことをしそうで心配です。」
「フフフ、何を言っているのよ。あの娘、あなたの小さい時にそっくりよ。まぁ、あと1日か2日、ケオケオと過ごしているでしょう。」
「そうですね。あの子は意外と怖がりですから。本当に戦争となれば、家で静かにしているのは間違いありません。母ですから娘のことはよく分かっております。」
「そうね。さあ朝食を頂きましょう。」
「はい。」
バージニアも着座して、優雅にナイフとフォークを手にした。
「・・・・何か聞こえるかしら?」
ドドドドドド・・・・
窓が少し振動し、空気を惑わす何かの接近を訴えてくる。
度度度度度度度度度度度度度度度度!!
「母様エアクラフトです!!見たことないシルエット!日本のエアクラフトです!」
「窓を開けてみて!またビラを配るのかもしれないわ」
二人で窓際に立ち、大きく窓を開けて上空を見ると、ちょうどフロート付きの日の丸の複葉機が通過してゆくところであった。
「二人乗ってるわ。こっちを見ていたみたい。」
度度度度度度度度度度度度度度度度!!
「また旋回してこっちにくるみたいです!」
「来たわ!こっちを見ているわ!あれ?!後ろの人ヘルメットを脱いだわ!女性かしら!珍しい!!」
「女性?!へぇ〜日本の軍人さんは女性パイロットがいるの?素敵ねぇ。どれどれ!」
度度度度度度度度度度度度度度度度!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ノア!!ノアァ?!!!ハッ母様!母様!母様ァ〜!!母様大丈夫ですかァ〜!!」
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