第169話 戦艦大和との邂逅
零式水上観測機はヨコハマラグーンから飛び出した。
海の世界から空の世界の住人となった新海とノアであったが、今日のオアフ島上空は雨模様だ。
上空には灰色の雲が立ち込め、風防には雨の水滴が打ちつける。
「わあ!ソラ!雨雲が近いっちゃ!」
ノアは伝声管から嬉しそうに話しかける。
「こんなに雲が近いのは初めてだろう?なら、ノアに雲の上の世界を見せてあげるよ!」
新海は高度を確認して操縦桿を引く。
「えっ!あの中に入るの?怖いっちゃよォ!ワワワァ!ワァ〜!」
そう言ってるそばから、零観は機敏な反応を見せて灰色の雲の中に突入する!
二人の視界は灰色に包まれ何も見えなくなるが、ゴーグルや頬に水滴となる前の水蒸気が触れて、雨雲のなかであることを認識させる。
「何も見えないっちゃ!前が見えないけど大丈夫っちゃ?!ソラ!」
「任せておけ!次は空の上に出るぞ!」
灰色の世界のなか、八百馬力級瑞星エンジンの躍動音が響き渡り、やがて世界はグラデーションのように灰色から水色に変わってゆく。
フッと機体が軽くなり浮き上がる感覚とともに、一気に視界は開ける!
その瞬間世界は鮮やかな青に変わり、太陽の直射光が機体に反射してキラキラとまばゆく照らす!
「えっ!雲の上ってこんなに晴れてるの!?下は雲?まるで雲の海の上にいるみたいで綺麗っちゃ〜!」
「そうだろう?空の世界では雲は天井じゃない!雲の天井は突き抜ければ海になるのさ!」
「Amazing!」
「さあ!それでは再び雲海に入るぞ!任務に移る!ノアも見張りを頼むよ!」
「はい!」
それから二人は再び雨雲の下に出ると、進路をオアフ島南方、真珠湾方面に向け海岸線を南進し、十数分後、やがて零観はオアフ島から離れ海上に出る。
「ソラ!どこまで行くの?真珠湾はそっちじゃないっちゃよ!」
「わかってる!この辺りは雨と風が弱まっている!見てくれ!」
「えっ!あれは・・・・エアクラフト!!」
遠くに3機の複葉機が見え、こちらに向かってくる!
「大丈夫なの?ソラ!」
「大丈夫だ!心配ない!一緒に手をふってくれ!」
新海は複葉の翼を振り、更に二人で大きく手を振ると、近付く3機も零観であり、相互に翼を振って応じてくる。
「なんとか発艦できたようだ!」
「えっ!まさか!ヤマトがいるの!」
「そのまさかだよ!かなり遠くに艦影が見える!わかるかな?」
「えっどこどこ!・・・・私には波しか見えないわ!あなた、どんな目をしてるの?Hawk eye?」
「フフ、近づいてるから、すぐ見えるようになるよ。」
ノアが目を凝らすこと数分、眼下には昨日遠くに見た戦艦群が再びその勇姿を顕にした。
特に、先頭を往く大和の存在感は桁違いだ。
「大きい・・・・なんなのこの大きさ、そして、とてもbeautiful。」
「そうだろう!ここまで間近に見た女の子は、きっとノアが世界で初めてだよ!」
「本当?!なんか嬉しいっちゃ!」
「そうだ!電信を頼む!私のリズム通り叩いてくれ!」
「はい!」
ツツーツーツツーツーツー・・・・・
ツツーツーツツーツーツー・・・・・
「送ったわ!返信はこうよ!」
「オッケー!今のは、我れA1、偵察任務を遂行するって送ったら、よろしく頼むと回答があったのさ!A1と
は戦艦大和所属のことだよ!さあ!私達の任務が大和の、日本の運命を左右するかもしれない!」
「やるぞぉ!!日本のため!そしてノアのために!」
「えぇ!頑張りましょう!!!」
二人の乗る零式水上観測機は、艦隊上空で大きく旋回すると、艦橋員が皆帽子を振ってくれるなか、翼を振って答えながら一路真珠湾方向に機首を向けるのであった。
その偵察席の乗員のヘルメットからは美しい後ろ髪が風雨すら弾いて靡き、何人かはその後ろ髪を目撃したが、まさか女の子が座っているとは考えることはなく、皆、雨のせいで見間違えたと思ったのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます