第162話 零式水上観測機

業業業業業業業業業業業業業業業!!!!!!

臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥臥!!!!!!


背後からは雷鳴のような破壊音が続き、鉄と油の焼けた匂いが海風に乗ってカエナ岬を駆け上がってくる。


「ノア、そんなに急がなくても大丈夫だよ。」


新海は後ろから優しく話しかける。


ノアは少し歩みを止め、一呼吸して振り返ると、私越しに背後に広がる大海原の戦場を見詰めた。


彼女の、そのわずかに青がかった緑色の瞳を覗くと、瞳の中に沈みゆくアメリカ艦隊が映し出されている。


アメリカの戦艦部隊は、彼女の瞳の中に、いま沈もうとしているのだ。


私はなんとなく、彼女のなかに沈ませてはいけない、少女の記憶のページに刻んではいけない光景なのだと感じ、こんなところに連れてきてしまった自分を戒めながら、必死に彼女の気を逸らすものはないかと周囲を見回した。


「ノアッ!ほら!あの雲!雲が出てきたよ!」


気が付けば上空は強めの風に流されて灰色の雲が陽射しを遮るように面積を増やしつつあった。


「そうね」


ノアの視線は上空に向いた。よし、このまま見えなくなるように巻いて下山しよう。


「あら?」

「ん?」

「エアクラフト!変よ!!」


ノアが上空を指差すと、そこには雲の切れ目から航空機が急降下している!


「あれは!観測機!!」


「 カンソク?」


「弾の命中を調べるエアクラフトだよ!!零式水上観測機というんだ!空から観察して命中しやすくするんだ!」


二人が見ていると、零式水上観測機は一旦持ち直したが、少しフラついている。


「大丈夫かな、煙は出ていないようだが。」


「弾の命中を調べるエアクラフトとかあるのね。やっぱり、I Ka nana no a 'ike イ・カ・ナナ・ノ・ア・イケね。」


「うん?ナニそれ?」


「ハワイのことわざよ。何ごとも、観察する事が大切っちゃね」


「へぇ、ハワイには観察が大切ってことわざがあるんだ。いい言葉だね。私を含めて、最近の日本に必要な言葉な気がするよ。」


「あっ!また高度を下げている!!持ち直せ!」


零式水上観測機は海上ギリギリで機体を持ち直したが、今度は急上昇するなど、完全に操縦士に異変が起こっているようだ。


戦場を離れて、方向が定まらないながらも、こちらの方向に近付いてくる!


蛇行しながらも、数分でカエナ岬を越え、私達の近くに差し掛かる!!


「ノア!危ない!伏せて!!」

「ワンワン!!!」

ケオケオも吠える!!

馬力馬力馬力馬力力馬力馬力馬力!!

馬場馬場場場場場場場場!!!


轟音とともに、零式水偵が私の上空数十メートルを通過しようと接近してくる!


あいつら、山腹に激突して自爆する気かもしれない!!


私は跳び上がりながら大きく手を振り叫んだ!!

「頑張れェ!!!味方だぞぉ!!!」


ふと思い出し、ポケットから日章旗の鉢巻を取り出して振る!!振る!!


パイロットも、偵察員の二人とも見えた!!パイロットは・・・赤く見える!!撃たれたのか!!それで!!


「頑張れェ!!!味方がいるぞぉ!!!」


パイロットと目が合った!!私を見て凄く驚いたあと、生きる目に変わった!!


零観はコースを変え、眼下南の海上を目指す!


着水する気になった!!


「ノア!!!」

「はっはい!!」「ワンワン!!」


「行くぞ!!助けるぞ!!」


私はノアの手を取り、急斜面を駆け下りる!!!


「キャァァァ!!!」


「こんなところ、ムリだっちゃー!!!」


「イ・カ・ナナ・ノ・ア・イケ!!」


「今使う言葉しゃないっちゃよォー!!」


零式水上偵察機は、フラつきながらも、カエナ岬南東数キロ地点の海上に着水に成功。


新海とノアは、樹木を利用しながら急斜面を駆け下り、数十分後には海岸線に辿り着くことに成功した。


途中、新海はやはりノアを勢いで連れてきたことに後悔したが、ノアは「怖いっちゃ!怖いっちゃ!」と連発するも、結局は雌鹿のような動きで華麗についてきたのである。


もちろん、ケオケオが難なく付いてきたのは言うまでもない。




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