第163話 救護

「着水したっちゃね!!良かった!!」


「飛行がふらついていたけど良かった!この辺は岩場で波が打ち消されて、着水しやすいんだ!」


「ワンワン!!」


新海たちが海岸線に着くと、零式水上観測機はなんとか着水に成功し、岩場が広がる磯浜に機体を停泊させていた。


「ノア。ここでケオケオと少し待っていてくれ、炎上する可能性もあるんだ。」


「エッ?、わかったっちゃよ。大丈夫ならすぐに呼んでね、パイロットのことも気になるわ。」


「オッケィ!」

新海はノアとケオケオを少し離れた所で待たせつつ、駆け寄る!


「おおーい!おお〜い!!大丈夫かぁ!!日本海軍だ!!味方だぞぉ!!」


私の呼びかけに、後部座席の偵察員が手を挙げるが、操縦員はうなだれていて明らかに様子がおかしい。


急いで駆け寄る。


操縦席、偵察席の風防に大小の穴が空いている。

「どうした?!降りて来れないか?!負傷しているのか?」


「はい、至近距離で高射砲の炸裂を受けました・・・・。私は腕の負傷のみですが、操縦席の鷹村一飛曹が心配です・・・・」


「わかった!今行く!」


新海は零式水観に取り付くと、偵察員が風防を開け、腕の怪我を庇いながらも降りてくる。


「私は新海少尉!赤城所属だ!昨日不時着したんだ!」


「赤城の方でしたか!!私は加藤一等飛行兵であります!!」


「よし!加藤一飛兵!牽引ロープを出せるか?こっちに投げろ!」


「わかりました!」


加藤は牽引ロープを取り、投げ渡してきたので私は付近の適当な岩に繋留する。


複葉機である零式水観の損傷を見ると、ニ枚の主翼の上翼に小さな破孔、そして操縦席と偵察席の風防にも破孔と亀裂が入り、特に操縦席の風防は点々と血がこびり付いていた。


私は零式水観に飛び乗り、よじ登って操縦席を開ける。


「鷹村一飛曹!!大丈夫か?」


「・・・・は・・・はい」

鷹村一飛曹は顔面や左半身から出血しており、力なくうなだれている。


「マズイな、とにかく機体から出さなくては。」

一人では難しいし、加藤も腕の負傷で難しい。ふと遠くを見ると、犬を抱いて心配そうにこちらを見る麗しき女性が目に入った。


「オーイ!ノア!来てくれェ!get in here!」


私は手を振りながら合図すると、ノアも手を振り、待ってましたと駆け寄ってくる!


「新海少尉!!あの、あの女性はなんですか!?」


加藤一飛兵が走り込んでくる女性を見て、物凄く動揺している。


「大丈夫。彼女は現地の娘だよ。名前はノア。私はノアに助けられたのさ、心配はいらないよ。」


「そっ、そうですか・・・・」

負傷しているくせに、突然服装を気にしだした。


「私とノアで鷹村一飛曹を降ろすから、加藤は下船してくれ、その負傷では無理だろう。」


「わかりました。私は機密書類を処分します。」


「そうだな、頼む。」


私は鷹村一飛曹のベルトを外していると、ノアは駆け寄った勢いをそのままに、2回の跳躍で操縦席上の新海の隣に飛び乗ってきた。


「大丈夫だっちゃ?」


「かろうじて意識はある。二人で外に出そう!」


「オーケイ任せて!!」


「良し!鷹村一飛曹!!外に出すよ!!頑張れ!!」


「せーの!Here we go! 」


操縦席から出してからは、鷹村一飛曹を四苦八苦しながらも3人で平らな場所まで運ぶことに成功した。


そこからはノアが止血等の救護措置を素早く行ったお陰で、鷹村一飛曹の容態は安定したのであった。


本当に、ノアは女神であった。




 



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