第153話 一方カエナ岬

カエナ岬から東は、峰沿いに一気に標高が上がってゆき、東西の山脈に至る。


二人はそんな中腹の、太平洋を見渡せる絶景ポイントで、遠くに見える海の要塞群を固唾を飲んで見詰めていた。


「ねぇ、ソラ?お互いにバンバン撃ってるけど、意外と当たらないっちゃね?」


ノアはケオケオを撫でながら怪訝な表情を浮かべている。


「うーん・・・・」

新海はチラリとノアを見ると、その横顔は日差しを浴び、蜂蜜のような瞳は光を反射してとても美しく、一瞬発すべき言葉を忘れかけたが、艦砲射撃の雷鳴に気付くと再び視線を遠くに戻した。


「そうだね。私も艦隊同士の撃ち合いは初めて見るけど、やっぱり遠いからね。なかなか難しいようだね。」


「アメリカ艦隊はこっちに近付いてるから良く見えるけど、日本の艦隊は私にはもう見えないわよ。あの水平線の先にいるっちゃ?」


「うん、見えるよ、日本の艦隊は二手に別れて、お互いに近付いているんだよ。」


新海は両手を使って相互の動きを解説する。


「オーケイ!どっちもファイト!」


「どっちもかい!」


「それゃあ、まあ、言ったでしょ、私は君の味方だけど、今のところどちらの味方というのはないっちゃ。」


「オーケイ、君に味方してもらえるように、信頼されるように我が日本軍は頑張るよ。」


「その調子だっちゃ!」

フフフ!ハハハ!

お互いに顔を見合わせて笑った!


業業業業業業業ゥ!業業業業業業業ゥ!業業業業業業業ゥ!業業業業業業業ゥ!


業業業業業業業ゥ!業業業業業業業ゥ!

突然、凄まじい轟音と共に、幾重もの水柱が高々と上がる!


「きゃ!何だっちゃ!?」


見ると、カエナ岬方向に接近中のアメリカの戦艦部隊6隻と、日本の水雷戦隊との中間の海域で、凄まじい水中爆発が複数回起きたようだ。


「あれは・・・・多分、水雷戦隊の酸素魚雷の爆発だ。」

「torpedo?」

「そう、魚雷だよ。日本の艦隊が遠くから発射していたんだ。しかし何故だ?衝突前に爆発してしまっている・・・。必殺の最新兵器だったのに。」


「ちょうどあの辺は、海中の流れが強い場所ね、海の神様に嫌われたかしら。」


「海中の流れか、信管の設定を過敏にし過ぎたかもしれない。魚雷担当整備員もそこが一番難しいと言ってたからな。」


「惜しかったっちゃね。」


「まぁ、確かに、いつ発射していたのかな、すごい遠くからだよね。」


「全然分からなかったっちゃよ。でも見て!アメリカ艦隊はびっくりしてバラバラに舵を取りはじめた!」


見ると、アメリカ艦隊の6隻は各艦がそれぞれ魚雷の回避行動を取り初めており、右に左に散開を始めた。


そのさなかも、時々魚雷の早爆は起きて高らかに水柱を作る!


「水中爆発がアメリカ艦隊に近付いてくるっちゃ。まるで見えない巨人が大股で歩いて来るみたい。」


「確かに、逆に魚雷群の接近がわかるので怖いね。これじゃ回避運動するのも当然だな。しかし何本撃ったんだろう。」


そして数分後、遂に!!


業業業業業業業業業業業ゥ!


重巡洋艦の左舷後部に命中!!!

一瞬閃光が辺りを照らすと、重低音が響き渡る!


重巡洋艦の船体は振動しながら左舷が浮き上がったが、致命傷には至らずにゆっくりと再び着水した。


「命中した!!!」


「凄い!!!」


大日本帝国水雷戦隊の放った102本の酸素魚雷は、最新兵器特有の運用の難しさにより早爆したものが多数であったが、1本の命中弾を与えた。

そしてアメリカ艦隊の隊形を崩し、その指揮系統を失わせ、各艦の主砲照準をリセットさせることに成功したのである。


そして、その先には、戦艦大和以下の打撃艦隊が山本ターンを終え、縦列陣形を保ちながら急速に接近してきているのである。

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