第151話 上位神
アメリカ太平洋艦隊。
旗艦、戦艦メリーランド。
艦橋では、戦隊司令官ウィリアム中将が日本艦隊の動きを双眼鏡で追いかけている。
傍らの幕僚長が話しかける。
「司令官、ジャップの水雷戦隊が分離して左回頭しましたが、依然として一定の距離を保っております。このままの針路ですと、再接近時の距離が一万五千はあります。」
「うむ、魚雷の有効射程には遠すぎる。この後何処かで仕掛けてくるだろうが、基本的に我が水雷戦隊に任せておけば問題なかろう。」
「はい、軽巡洋艦フェニックス以下21隻の水雷戦隊が突撃に入りました。数はこちらが上ですから有利に展開すると思われます。」
「うむ、しかし無防備に我が艦隊に接近したことを後悔させてやろうではないか。」
「各艦に伝達!射程距離に入り次第、敵水雷戦隊に発砲開始せよ!!」
「イエッサー!!射程距離に入り次第、敵水雷戦隊に発砲開始!!」
直ちに命令が発せられると、戦艦テネシーとペンシルベニアは主砲を左舷に回頭させ、先頭の艦に狙いを定めた。
その間も敵戦艦から散発的に発射された主砲弾は周囲に巨大な水柱を上げる。
「しかし敵戦艦の着弾は何だ?!遠ざかっているのでまだお互い命中弾が無いが、さっきの至近弾から推測しても、我々の41センチ砲より上だ、43センチ砲かもしれんぞ。」
「はい、あの先頭の戦艦だけ、迫力がちがいます。」
「うむ、しかし伝統的に我がアメリカの戦艦は速力を犠牲にして防御力重視で建造されているのだ、耐えてくれるだろう。」
「はい。」
「本番は敵戦艦群が左回頭してからだ。一気に距離が近付けば、激しい打ち合いになるだろう。」
ゴクリ、幕僚長もその瞬間を想像すると、緊張を隠しきれない。
「はい。司令官、今後の展開としては、敵水雷戦隊は突撃を開始、敵戦艦群は左回頭して反航戦となるのは間違いないと考えます。反航通過後はさらに回頭して接近戦ということでよろしいでしょうか?」
司令官はニヤリと笑みを浮かべると、逆に質問する。
「フフフ、幕僚長は、この戦いの勝利条件についてどう考えるかね。」
「勝利条件、ですか。それは当然、敵艦隊の撃滅であります!」
「ふむ、違うな。」
「違いますか?!では?!」
「ジャップの揚陸艦、補給艦等の後方艦隊の殲滅だよ。ジャップは数万の部隊を上陸させたようだ。当然だがかなりの規模の補給艦隊が後方に存在する。」
「はい。」
「これを叩けば、上陸した部隊など恐れるに足らん。敵艦隊とて、燃料不足で帰還する以外に道はない。」
「はい、確かに。」
「従って、我々の針路はこのまま北北東に進み、カエナ岬を通過して一気に敵の後方艦隊に殴り込みをかけて殲滅するのだ、東回りの水雷戦隊とも合流できるしな。」
「はい、確かに。」
「敵艦隊はこちらが最後まで艦隊戦に付き合うと思っているだろうが、付き合うのは一航過のみだ。自慢の最新鋭戦艦のようだが、当たらなければ意味などない。」
「しかし、我が艦隊の速度では振り切ることは難しいのでは?」
「振り切る?聞こえなかったか?後方艦隊を叩ければ勝利だと。」
「・・・イエッサー!!」
艦橋内の全員が何処か楽観視していた。ジャップの艦隊など恐れることはないと。
しかし、ウィリアム司令官は分かっていたのだ。
いや、大和主砲の水柱を見て分からされたのかもしれない。
ヴァルキリーよりも上位の神の存在を。
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