第142話 亜米利加の流星
時を同じくして、戦艦メリーランド以下のアメリカ太平洋艦隊30隻もカエナ岬に差し掛かる。
旗艦、戦艦メリーランド艦橋では、幕僚長が緊張した表情で報告する。
「単縦陣形完了しました。」
戦隊司令官ウィリアム・サタリー・パイ中将は、葉巻の煙を吐き出しながら冷静に答える。
「よし。」
「カエナポイント、間もなく通過します!」
見張り員からの報告を受け、ウィリアム司令官は幕僚長に語り掛ける。
「間もなくだな。敵情報告に変わりはないか。」
「はい、偵察機の報告は一時間前が最後です。内容は敵艦隊は30隻程度、そのうち戦艦は4隻。カエナ岬北東部を西進中であります。」
「そうか、まあよい。我が艦隊の準備は整った。あとはイエローモンキーが作った泥舟を見せてもらおうじゃないか。」
ウィリアム司令官は、葉巻の煙を吐き出すと、激を飛ばす!!
「皆の者!敵艦隊はカエナ岬の先にいるのは間違いない!!距離は約20000であろう!発見と同時に砲戦を開始する!!」
「右砲戦!!攻撃準備!!」
「右砲戦!!攻撃準備!!」
戦艦メリーランドの主砲45口径40.6センチ二連装砲塔四基、計8門が右旋回を始め、90度で停止する。
ウィリアム司令官は、葉巻の煙を吐き出しながら、左手で双眼鏡を構えてカエナ岬を望む。
カエナ岬はオアフ島中央のワイアナエ山脈の西端にある突出部であり、間もなくカエナ岬の先端、そして海が見えるようになってくる。
幕僚長が緊張した表情で報告する。
「カエナポイント、通過します。」
皆が双眼鏡を構えて右舷を見詰める。
「カエナポイント、通過。」
幕僚長が機械的に告げる。
「見えた!」「居たぞ!」各員からどよめきが上がる!
カエナ岬の奥には、敵艦隊の排煙が幾筋も立ち上っている。
先頭の排煙がやたらと太く見える。蜃気楼でデトロイト工業地帯の排煙を映しているようだ。
その太い排煙の下を双眼鏡で凝視すると、その工業地帯の工場は不自然に大きく見える。後続艦との距離感がおかしい。
「測距はどうだ!!先頭の奴との距離は!?」
「ハッ!測距チームどうだ!」
「こちら測距チーム!速報値で敵先頭艦との距離約30000メートル!」
「30000!!20000ではないのか!!」
「距離は30000で間違いありません!敵艦が!敵艦の大きさが、遥かに大きいのであります!その後続艦も距離30000です!先頭艦の全長は300近くに見えます!」
「全長300!?いくらなんでもそれはない!落ち着いて測距せよ!」
「ハッ!」
幕僚長が意見具申する。
「司令官、敵艦隊は想定通り単縦陣形ですが、距離が30000ですと遠すぎます。このメリーランドの主砲しか届きません。ペンシルベニアとテネシーは20000まで接近する必要がありますし、重巡洋艦を考慮すれば、有効射程は15000メートルです。」
「ううむ。もっと接近してくると思っておったが、ジャップめ、我が艦隊を恐れて距離をとったな。」
「先頭艦の測距次第ですが、何れにせよこの艦は射程距離内です。本艦のみで右砲戦開始でもよいかと。」
ウィリアム司令官は、無意識に両手で持っていた双眼鏡を下ろす。
いつの間にか手放してしまった葉巻は足元に転がっていた。
クソッ!私としたことが!
手元にないと判ると猛烈に吸いたい衝動に駆られるが、それを断ち切って命ずる!
「各艦に命令!本艦のみ対水上戦闘を行う!」
「本艦のみ対水上戦闘!」
「右砲戦!目標敵戦艦一番艦!方位盤射撃!各員配置に着け!」
「右砲戦!目標敵戦艦一番艦!方位盤射撃!各員配置に着け!」
アメリカ海軍の主砲発射方法も、日本と同じ方位盤射撃方式である。
方位盤は元々海洋軍事大国イギリスが1900年初頭に開発したもので、日本とアメリカはその技術と射撃法を継承していることから、この戦いは言うなれば弟分同士の戦いと言っても過言ではない。
とはいえ、既に日本は航空機でイギリス東洋艦隊の戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスを撃沈しており、革新性、先進性においてイギリスを超えたといっても過言ではないのだが、いよいよこの戦いで艦砲射撃での優位性が試されるのであった。
戦艦メリーランドの主砲は45口径40.6センチ二連装砲塔四基。
放つ徹甲弾はAP Mark5。重量1016キログラム、最大射程は32000メートルである。
指示を受け、方位盤、射撃盤は計算を始め、主砲は徹甲弾を装填する。
「測距ヨシ!敵一番艦との距離、29500!」
「仰角、旋回角ヨシ!」
「主砲準備ヨシ!」
「射撃準備ヨォシ!」
効率よく各部署から報告が上がる!
ウィリアム司令官は、満を持して号令を放つ!
「リメンバーパールハーバー!!!ファイアァ!!」
「ファイアァ!!」
剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪!!!!!!
奇しくも大和と全く同じタイミングで、両軍の砲塔が凄まじい閃光を放ち、その一瞬後凄まじい轟音が轟き!ハワイを震わす亜米利加の流星が誕生した!!
地球史上初、流星と流星がハワイ上空の成層圏で宇宙戦闘を行おうとしていた。
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