第141話 主砲発射
艦長の命令を受け、方位盤射撃指揮に移行すると、次の指揮は射撃指揮所長である砲術長が執る。
艦長から指示を受けた敵目標艦に対して、最適の攻撃方法を判断しなければならない。
砲術長は指揮官望遠鏡を見ながら号令を掛ける!
「標的、敵戦艦メリーランド、敵艦との距離29500メートル!針路270!方位盤照準!」
最初に、九八式方位盤照準装置改一の精密望遠鏡で敵影を捉えると、その画像は同時に発令所にも写し出される仕組みとなっている。
第一砲塔と第二砲塔間の防御甲板下部の重要防護区画にある発令所に設置されているのは、射撃システムの頭脳、九八式射撃盤である。
この射撃盤の機能は、一言でその性能を説明すると、敵艦の未来位置を予測した弾道計算機である。
しかし計算機とはいっても、この時代に自動的に計算するような機械は存在しない。
射撃盤の内部は複雑に要り組んだ歯車が相互に干渉する仕組みで、最終的に九八式方位盤照準装置改一の精密望遠鏡で捉えた敵影に対して、主砲の最適な仰角、旋回角をはじき出す大型精密機械である。
この発令所では、射撃盤を操作して弾道計算を行う専門要員として、発令所長以下200人が配置に就く。
各員は自艦の速度、針路、敵艦の速度、針路、湿度、風、波、地球の回転、主砲の磨耗状態、弾の種類等、刻々と変わる全てのデータについて割り当てられた項目を担当し、精密望遠鏡で捉えた敵影を見ながら目盛り計等を常に最適となるよう操作し続けると、九八式射撃盤はその全ての操作結果が連動して最適な仰角、旋回角をはじき出し、そのデータを艦橋、射撃指揮所、砲台に送り続けるのだ。
これと平行して、46センチ三連装砲塔も発射準備に入る。
まずは弾薬の装填だ。
対艦用の九一式徹甲弾は、全長195センチメートル、重量1460キログラムの鉄の塊である。
弾丸自体の重量と速度で凄まじい運動エネルギーを発生させ、第一に貫通破壊作用をすることを目的とする。従って内包する炸薬は33キログラムと少なく、爆発での破壊は二次的なものである。
この砲弾は砲塔下の弾庫内に一門当たり100発分貯蔵されており、水圧式の自動装填装置で装填される。
砲弾はエレベーターで上昇し、砲塔の砲室に入ると、次に発射用の火薬がエレベーターで上昇し、砲弾の後方に詰め込まれるのだ。
その火薬の量は330キログラム。
重量1460キログラムの鉄の塊を打ち出すのに、330キログラムの火薬を必要とするのだ。
これだけの火薬の爆発に耐える砲身は日本技術の粋を尽くしたものであるが、それでもその砲身は一門につき100発が発射弾数の限度とされており、それ以上の発射は砲身が暴発する恐れがあるのだ。
そうしていると、射撃盤で得たデータを基に、砲術長は号令を掛ける!
「一斉打ち方始め発射!徹甲弾!連続!!」
「一斉打ち方始め発射!!徹甲弾!!連続!!」
砲術長の号令を受けると、主砲塔要員が射撃盤のデータ通りに、46センチ三連装砲塔の仰角、旋回角を合わせて調整する。
全てが一致すると主砲発射可能状態となり、各砲台から報告が上がる!
一番主砲準備ヨォシ!
二番主砲準備ヨォシ!
三番主砲準備ヨォシ!
これで準備は整った!!最終発射の号令は艦長が受け持つ。
艦橋では、報告を受けた高柳儀八艦長が山本長官、宇垣参謀長、黒島参謀を改めて見ると、無言で頷いてくる。
この三人は不動明王の如く静かなる闘気に満ちており、艦長は、きっと東郷平八郎元帥もこのような人だったのだろうとふと思った。
艦長は気を引き締めて大和艦内に響き渡るように高らかに歌う!
「打ちィ方 始めェー!」
砲術長が復唱する!
「打ちィ方 始めェー!、発射用オオォ意!!」
「発射用オオォ意!!」
方位盤射手が主砲発射ブザーを3回鳴らすと、艦内に響き渡る!!
砲術長が号令を掛ける!!!!
「打てェェェェ!!!!!!」
方位盤射手は主砲発射用の引き金を引くと、各砲台に電流が流れ、同時に九八式発砲遅延装置が作動し、各三連装砲台は0.3秒間隔で中砲、左砲、右砲の順に発砲!
剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛剛業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業業豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪豪!!!!!!
必殺の九一式徹甲弾は発射され、ハワイの空を切り裂く破壊の流星が誕生した!!
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