第140話 九八式方位盤照準装置改一
敵艦を視界に捉えて約10秒、主砲射撃指揮所から報告が入る!
「測距完了!敵艦との距離、29500メートル!針路270!」
艦橋上部の15.5メートル測距儀のほか、後部10メートル測距儀が目標艦を直ちに捉えると、測距平均器で敵艦までの距離をはじき出す!
宇垣参謀長が具申する。
「長官!同航戦ですぞ!距離は29500メートル!大和には十分の距離ですが、35.6センチ砲の伊勢日向山城には若干遠く、20.3センチ砲の重巡洋艦3隻は弾が届きませんな」
「そうだな、敵の戦艦は3隻、こちらは4隻だ。先に戦艦で始めるかね、参謀長。」
「ハイ!始めましょうか!長官!手筈通り、2艦ずつがベストだと判断します。参謀も意見はないか。」
「ありません。この大和のイカズチを早く見たくてウズウズしておりますよ。」
「ワッハッハ!そうだろう!ワシもだよ!」
もはや参謀というか、大砲好きの親父に変貌したようだ。
「決まったな。」
山本長官は大きく息を吸い込むと、覇気を声に乗せて指令する!
「各艦に通達!戦艦のみ左砲戦!針路速度そのまま!目標は本艦及び伊勢は敵1番艦戦艦メリーランド!日向、山城は敵2番艦戦艦ペンシルベニア!伊勢、山城は弾着が重ならぬよう注意せよ!各艦長指揮!始めぃぃ!」
「了解!戦艦のみ左砲戦!目標は本艦及び伊勢は敵戦艦1番艦メリーランド!!日向、山城は敵戦艦2番艦ペンシルベニア!!、伊勢山城は弾着が重ならぬよう注意!!各艦長指揮で始め!!」
復唱され、発光信号、手旗信号で命令が直ちに伝達される!
「大和の指揮を頼むぞ!高柳儀八艦長!」
「ハッ!!」カツン!
艦長は靴を鳴らして敬礼する!
艦長は大和の指揮を改めて任され奮い立つ!
宇垣参謀長をチラと見ると、参謀長も頷く。
高柳艦長は伝声管で艦内各部署に指示する!
「対水上戦闘!!左砲戦!!目標敵戦艦一番艦メリーランド!!主砲方位盤射撃指揮 !各員配置に着け!」
命令を受け、艦内の兵約2500人は、素早く所定の行動に移る。
甲板員は主砲の発射に備えて艦内に退避する。
甲板上に居ると、衝撃波で命すら危ういのだ。
主砲配置ヨシ!
計測員、記録員ヨシ!
甲板員退避ヨシ!
各部署から報告が上がり、全部署が主砲発射体制に備える!!
「打ち方用意!!主砲、方位盤射撃指揮始め!!」
「打ち方用意!!主砲、方位盤射撃指揮始め!!」
打ち方用意の艦長の命令を受け、方位盤射撃指揮に移行する!
方位盤は、海面上60メートルの大和最上部の主砲前部射撃指揮所内にあり、正式名称を九八式方位盤照準装置改一という。
九八式方位盤照準装置改一とは、一言でその性能を説明すると、照星照門と引き金である。
しかし、相互に激しく動きながら
30キロメートル先を狙う訳である。
例えるならば、騎馬弓兵同士が30キロメートル離れて撃ち合うのである。
当然一本一本狙っても当たるものではない。針路を変えられたら終わりだ。
そこで弓兵は相手の未来位置を予測して同時に9本の矢を網を投げるように射るのだ。
9発の矢は網の中に確率的に落下し、その中に居る相手は確率的に命中する。多少針路を変えられても、それをある程度想定して網の中に収めていれば、命中する確率には変わりはないのだ。相手にしてみれば、弓矢の雨が降るなか、避けようが直進しようが、被弾する確率は変わらないのだ。
この網はなるべく小さい方が命中率は上がる。それを可能とするのが戦艦大和の射撃システムだ。
九八式方位盤照準装置改一には、指揮官望遠鏡、旋回望遠鏡、俯角望遠鏡、横動揺望遠鏡、高角望遠鏡の各種精密望遠鏡が設置され、そして主砲用の引き金が設置されている。これを砲術長以下で受け持ち、方位、距離、角度等、砲塔の旋回、砲身の角度を調整、保持照準するのだ。
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