第135話 アメリカ太平洋艦隊
オアフ島カロア岬南方を、アメリカ太平洋艦隊は北上する。
その艦容は、旗艦に戦艦メリーランド、後続に戦艦ペンシルベニア、戦艦テネシーが続き、重巡洋艦ニューオリンズ、インディアナポリス、ミネアポリスの3隻が並進する複縦陣を組んでいる。
その後方には軽巡洋艦セントルイス、フェニックス、ホノルルの3隻を先頭に、駆逐艦21隻が3列に複縦陣を組んでいる。
総数は30隻、奇しくもこれから対峙する日本艦隊と、艦数としては同数であった。
旗艦である戦艦メリーランドに座乗するのは、戦隊司令官ウィリアム・サタリー・パイ中将である。
ウィリアム中将は61歳。
17歳でアメリカ海軍士官学校に入学し、第一次世界大戦も経験した歴戦の指揮官であり、特に戦艦部隊の指揮には定評があるアメリカの砲術専門家である。
ウィリアム司令官は制帽を目深く被り、その奥に光る眼差しは遠方のカロア岬の更に遠くに向けられていた。
「幕僚長」
「ハッ」
傍らに控える幕僚長は10歳ほど年下で、初陣に緊張を隠しきれない様子だ。さっきからずっと双眼鏡を見続けている。
「我が艦隊が敗れるはずがない。ジャップ共は卑怯な不意打ちをして停泊中の戦艦部隊に大打撃を与え、いい気になっているようだが、それももう終わりだ。」
「はい。」
幕僚長だけでなく、艦橋内の全員が司令官の言葉に耳を傾ける。
「日本の戦艦など恐るるに足らん。猿が作った、猿の操る泥舟に過ぎない、ハワイの海に沈めてもらうためにやってきただけだ、奴等の砲塔の一本一本をロブスターの住みかにさせてやろうじゃないか。」
「イエッサー!」
少し悲壮感も漂っていた艦橋内の雰囲気が少し明るく和らいだ。
「それで、先程の情報にあった大型の敵戦艦について、何か判った事はないのか。」
「はい、諜報部に問合せておりますが、司令官のおっしゃる通り、戦艦長門タイプの新造艦ではないかとのことです。」
「新造艦だと?」
「諜報部によれば、長門、陸奥の2艦はヨコスカに駐留しているそうです。我が国の大使も招かれたセレモニーに使われたとかで間違いないそうです。」
「ふむ、それでは長門、陸奥ではないな、それで新造艦かね。」
「はい、以前から日本は長門タイプの戦艦を更に2隻建造中との情報があったそうです。」
「それは初耳だな。」
「はい、私も知りませんでしたが、諜報部も詳細を把握していないらしいです。」
「ふむ、艦砲射撃を受けた地上部隊からの報告では、普段見慣れている我が戦艦部隊よりはるかに大きい戦艦だったとの報告だな。」
「はい、何とも言えませんが、初めて敵の艦砲射撃を受けて錯誤に陥っている可能性もあります。」
「ふむ、長門の主砲は41センチのはずだ。大きさ等我が艦と同等のはずだがな、もしかしたら敵戦艦の1隻は43センチクラスの砲かもしれない。」
「43センチですか!?」
「まあ、仮定だよ、そもそもジャップがそんな艦を作れるはずがない。イギリスで作って貰った戦艦コンゴウを真似ていろいろ作ったようだがな。所詮猿真似だ。」
「司令官、敵の偵察機が接近中です。」
「さっきから鬱陶しい奴だ。もう少し接近させて、一気に集中砲火で撃ち落とせ。」
「イエッサー!」
「皆の者聞け!艦隊戦に航空機は不要!」
「戦わずに喪われた戦艦アリゾナ、オクラホマ、ウエストバージニア、カリフォルニア、ネバダ。そして
司令官アイザック・キャンベル・キッド 少将を始め多くの将兵達。」
「この戦いに勝利し!無念をはらし!復讐を遂げる!」
「イエッサー!復讐するは我にあり!!」
「復讐するは我にあり!!」
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