第134話 進軍
戦艦大和はその巨体を緩やかに前進させる。
日本海軍、艦政本部が開発に成功したタービン4基が唸りを上げると、それぞれ接続された艦下の3枚翼プロペラ4基を高速回転させ、凄まじい推進力を生み出す。
15万馬力という莫大なエネルギーを要する艦船は人類史上初であり、日本史では約400年前に織田信長が鉄甲船を製造させてから日本のモノ作りは進化を続け、遂に最強の鉄甲船、戦艦大和に到達したのだ。
他にも新技術として艦首下部が球状となっており、これをバルバス・バウといい造波抵抗を打ち消すもので、大和は最新タービンと相まって最大時速50キロメートルで爆走することが可能となったのだ。
ハワイの海を掻き分け、打撃艦隊は陣形を組む。
その艦容は、戦艦は大和、伊勢、日向、山城の4隻。
重巡洋艦は、最上、三隈、鈴谷の3隻。
軽巡洋艦は、川内、鬼怒の2隻。
駆逐艦は三日月以下21隻。
総数30隻の大艦隊である。
艦隊は戦艦大和を先頭に、2列に並列した複縦陣を組み、威風堂々と進んでゆく。
敵艦隊までの距離は約35キロメートル。
この距離であれば、戦艦大和の艦橋より上部、通称トップに設置された主砲射撃指揮所の精密望遠鏡であれば敵艦影が見える距離であるが、今回は前方にオアフ島カエナ岬が横切っており捉えることが出来ない。
そう、戦艦大和の主砲。45口径46センチ砲の射程距離は、最大42キロメートル。
その対艦用砲弾は九一式徹甲弾といい、全長約2メートル、重量1460キログラムの鉄塊であり、それを42キロメートル先に撃ち込むという、一般人には想像がつかないレベルのものであった。
大和艦橋には、水上偵察機から着々と報告が上がってくる。
山本五十六連合艦隊司令長官は、厳しい表情で宇垣参謀長に問いかける。
「敵艦までは35キロメートル。あまり縮まっていない。敵艦隊も西に拡がる陣形だな。」
「はい、想定通り、両者西進しての会敵となりましょう。30キロメートルまで近付いてくれば大和のみ射撃開始してもよかったのですが、35はちと遠いですな。」
「流石の大和でも当てるのは難しいか。」
「はい、弾は届きますが、当たらんでしょうな。見えなくては射撃盤が使えませんし、竣工後すぐの作戦であったため、射撃訓練もあまり出来なかったですからな。」
「フム、大和竣工を急がせたからな。宇垣参謀長、黒島参謀、砲術の専門家としての判断、頼りにしていますぞ。」
「はっ、お任せください。」
「次のポイントはカエナ岬を過ぎて敵艦隊を視認してからか。」
「はい、見えれば、こっちのものですよ。」
宇垣参謀長は、心底楽しんでいるような、そして確固たる自信を持ってこの戦いに望んでいた。
隣に控える黒島参謀も、砲術学校教官や巡洋艦の砲術長を務めており、鉄砲屋としての知識経験は高い。
「私と参謀長は鉄砲屋の道を歩みましたが、実戦経験はありません。一方長官は日本海海戦に参加されていますから、その唯一無二の実戦経験をここに生かしていただければ我々の勝利は間違いないですな。」
「日本海海戦か、東郷閣下・・・。人々は何て言うかな、この戦いの名を。」
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