第124話 戦艦大和 山本五十六

それは黒金の城である。


ただし、大地ではなく、青い海に聳え立つことで、世界に覇を唱える事が可能となった、世界最大、世界最強の城である。


その城の名は、大和。


日本国の別名としても用いられる神の呼称だ。

大和は天照大御神の着用する最強の鎧であり、その主砲は草薙の剣の一撃となって全てのものを打ち砕く神の裁きを与えるものである。


その海域には、大和の他にも無数の戦艦、巡洋艦、駆逐艦、大型輸送艦、上陸用特務艦が整然と、縦隊陣形で整然と突き進んでいる。


陣形の中央に位置する戦艦大和の諸元は全長263メートル、全幅38.9メートル、海面からの高さ約60メートル。

攻撃力は、主砲が46センチ三連装砲塔が3基、副砲が15.5センチ三連装砲塔4基を搭載。

主砲の最大射程は42キロメートルにも及ぶ神の鉄槌である。


防御力は、集中防御方式を採用し、重要区画は自らの神の鉄槌にも耐えられるよう設計され、両舷側は最大41センチ、主砲装甲に至っては65センチの特殊甲鈑に覆われている。


頭脳ともいうべき第一艦橋は海面高さ約50メートルの地点に位置する。

そこには今、大日本帝国海軍第27代連合艦隊司令長官、山本五十六が後ろに手を組んで遠くを見詰めている。


山本五十六は57歳、身長160センチ、体重65キロ。恰幅が良く、穏やかで包み込むような雰囲気をまとうが、その眼は深淵の如き思慮と僅かな悲しみをたたえ、その耳は大きく、偏見に左右されず様々な情報を適切に判断することができる。

山本は越後新潟県の出身であることからも、義に生きた戦後大名上杉謙信の生まれ変わりのような男である。


傍らに控える参謀の黒島亀人少将が口を開く。

「無事にここまできましたな。間もなく日没です。あと230キロ、順調ならば明日には上陸作戦ですな。」


「うん、ここまで見事に順調だったな。なにより、南雲さん本当に良くやってくれたな。今日の爆撃でも砲台を確実に破壊したようだし、こう言ってはなんだが想像以上の功績だよ。」

チラリと傍らにいる参謀長の宇垣纏中将を見ると、宇垣が答える。


「そうですな、南雲中将は私と同じ砲術の専門家ですから、まさかここまで新設の空母機動部隊を使いこなすとは思いませんでした、私としても至極感服しております。」


宇垣参謀長は鉄仮面というあだ名を持つ男だが、素直に感動している様子だ。


「ここからは、我々戦艦部隊の役目ですな。空母機動部隊が敵戦艦を殆ど沈めてしまったのでそこだけが残念ですぞ。」


「宇垣さんはいつもそうだね。主砲をぶっ放すことに命をかけてる。」


「確かに、ワッハッハッハッ!」

ワッハッハハッ!!


艦橋内は和やかな雰囲気だ。それも山本長官の人柄の成せる技であろう。


すると伝令が走り込んでくる。

失礼します!暗号無線が届きました!

黒島参謀が暗号文を受けとり一読する。


「司令長官、軍令部から各地の状況報告です。」

黒島参謀は禿げ頭で仙人というあだ名を持つ男だが、頭を輝かせて嬉しそうだ。


「ほう、良い話だな、構わん話せ。」

山本長官は黒島参謀の頭を見るだけで吉兆を判断することができるのだ。


「本日の戦果は、グアム、タラワ、マキン島上陸即日占領。フィリピンルソン島北部上陸成功し進撃開始。」

オオ!やったぞ!艦橋内回りからも歓声が上がる!

「そして最後に、マレー半島東方沖においてイギリス海軍東洋艦隊を基地航空隊の九六式陸上攻撃機と一式陸上攻撃機の編隊が攻撃、戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスを撃沈せしめた模様。損害も僅かだそうです。」

艦橋がどよめく!

宇垣参謀長が思わず問いかける!

「本当か?!イギリス東洋艦隊が一番の懸案事項だったのだぞ!それを、基地航空隊がか!本当か!」


「間違いありません。」


「そうか、長官、時代は長官の仰る通り、航空機の時代なのですね。」


山本は何も言わず、ただ微笑んだ。

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