第123話 ハワイ王室関係者の幽閉

キンメル太平洋艦隊司令長官は集められた人達を見渡し、不穏な雰囲気を振り払うように努めて明るく話し始めた。

「さて皆さん、急にお越し頂き申し訳ありません。お集まりの方々は皆顔見知りだと思いますが、ハワイ王室又は王政関係者の方々に集まっていただきました。」


「わかってるよそんなことは!強引に連れてきて、なんのつもりだ!」


「お怒りはごもっともで失礼をお詫びします。しかし日本との戦争に伴う緊急事態につき避難も兼ねて集まっていただいたのです。」


ここはイオラニ宮殿の会議室。

登壇したのはキンメル太平洋艦隊司令長官、ショートハワイ方面陸軍司令長官、ジョセフ知事の3人である。


対するは高齢者が大半を占める十数人の人々。王室関係者等といっても数十年前のことで、ハワイ先住民的な見た目以外に際立った特徴はない。

一部を除いて。


「お手元にあるビラは、ご存じのとおり、数時間前に日本軍がオアフ島各地に撒いたものです。」


「アメリカ軍は何をしている!我々の土地に基地を作って、なのに何も出来ないじゃないか!」

先程から激昂している高齢男性がタバコを片手に言い放つ。


「ビラの内容は嘘ばかりで、卑劣な奇襲攻撃を正当化するものに過ぎません。ただ、その古の盟約という言葉について、我々アメリカ軍が把握していないことがあるかもしれないと考え、皆さんの記憶と知識が必要となりお集まりいただきました。」


「なるほどな!しかしこの内容、その盟約は判らんが、それ以外は間違ってもない話ではないか。そもそもが我々の土地

「今は盟約の事だけ伺いたい!よいですかな。」

ショート司令長官がギロリと睨み言葉を遮る。


すると別の高齢男性が声を挙げる。

「多分、何かあるとすれぱ、カラカウア王が日本を訪問し、エンペラーと外交交渉をしたときではないか。それ以外に接点はないだろう。」

「記録があるんじゃないか?」

「うん、それしか思い当たらない。リリウオカラニ王もそのことはよく言っていたよ。」

皆が合意する。


「そこのところ詳しくお願いします。」


「いや、当時の話しとしては、ハワイと日本の同盟と、カイウラニ王女とエンペラー一族との婚姻を目指したが、結局ダメだったとしか聞いていないよ。」

皆が頭を捻る。本当に知らないようだ。

このなかで、唯一王室の雰囲気をまとう凛とした高齢女性が声を挙げる。

「記録はないんですの?」

知事が答える。

「はい、ミセステレサ、なにぶん昔の話で、記録といっても簡潔な内容なのです。あなたはカラカウア王を始め、歴代の王とも親交がありましたね。我々の知らない書類があるとか、書類に残っていない部分でも結構ですからご存知のことはありませんか。」


「わかりませんわ。しかし、カラカウア王とエンペラーはアメリカに対して危機感を共有していたそうですから、そういう部分で何か書類に残せない何かがあった可能性はありますわ。実際、リリウオカラニ王女はアメリカに幽閉されましたし。」

「そうだそうだ!当時のアメリカはハワイを奪うためにあらゆる手を打っていた!」

ショート司令長官が激昂する。

「君達はまるで!ハワイはアメリカに占領されたと言わんばかりではないか!まさか日本の言うことを肯定する訳ではないでしょうな!肯定するとしたら、反逆罪で逮捕することもやむを得ませんぞ!」


「逮捕したければしたらよいでしょう。私達は逃げも隠れもしませんわ。」

「お母様!言い過ぎです」付き従う娘が小声で嗜めるが時既に遅し。


「わかった!衛兵!この者達を逮捕、ええぃ、隔離するのだ!話の続きは一人ずつ聞けば良い!」



全員年配者が多い事もあり、抵抗は僅かで衛兵に連れられてゆく。隔離場所は宮殿内のリリウオカラニ王女が幽閉された部屋である。


キンメル司令長官はショート司令長官に言う

「すこしやりすぎだったのではないですかな。」

「やむを得ません!事態は一刻を争うのです!私は陸軍の司令長官としてこの島の防衛に責任があります。批判的な旧王室関係者と長話をする余裕はないのです!」

「キンメル司令長官は聴取結果をホワイトハウスに報告してください!」

「私は防衛プランの指揮をとっておりますので、終わりましたら司令部まできていただきたい!共同で対策に当たらねばなりません!」


「わかりました。もう少し聴取したら向かいます。」


ショート司令長官は速足で宮殿を後にする。


キンメル司令長官とジョセフ知事は顔を見合せたが、何も言わずに見送るのであった。


ジョセフ知事が訪ねる。

「日本の艦隊はどうなんですか。」

「はい、この期に及んで隠しても仕方ありませんから言いますが、北西250キロ地点をこちらに向け接近中です。」

「偵察機は撃墜されましたが、戦艦から上陸用艦艇、大型輸送船等、100隻以上だそうです。」


「100隻以上!!我々はどうなるんでしょうか。」


「残された艦隊を差し向けております。出来ることをやるだけです。」


「なんですか日本人とは?どんなやつが指揮をとっているんですか?とんでもない奴に違いありません。」


「そこは私も同意します。ヤマモトイソロクという名の将軍であったはずですが。」


「ヤマモトイソロク・・・どんな奴なんだ・・・・」

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