第102話 帰還

空中決戦は幕を閉じ、敵の攻撃隊は大きく数を減らして撤退していった。


零戦隊で追撃を試みた機もあったが、全力で逃走する敵機は思いのほか速く、帰投せよとの無線指示もあり深入りせずに帰還した。


私の小隊は板谷隊長に続き、早めの順番で母艦に着艦することとなった。

何か新たな命令があると察する。


綺麗に着艦し、機体を整備員に任せ、南雲司令官と草鹿参謀長、源田参謀、板谷少佐の待つ指揮所に集合した。


あらかたの報告は板谷少佐が済ませていた模様だ。私が帰投申告をすると、南雲司令官が微笑み喜んでくれる。


「おお、新海少尉と那須君、神鳥谷君だね、君達の活躍は艦橋から見ていたよ。鮮やかな攻撃だった。新海小隊の真骨頂を見せてもらったよ。」


「はっ、有り難う御座います!」


「詳細な戦闘報告は板谷少佐から聞いたし、大体は見えたのだか、私から見ても零戦隊は圧倒的だったが、実際に戦っていると敵はどのような印象かね。」


「はい、一通りの機種と戦った感想としては、P40やB17、SBDドーントレス急降下爆撃機等、アメリカの新型は防御力にも配慮したバランスが良い機体で、強敵だと思います。」


「ほう、バランスが良い強敵かね。」


「はい、我が零戦は、防御力や急降下性能等の短所があるのですが、それを遥かに超える数多くの長所があります。」


「うむ」


「そして防御力等の短所を技量でカバーしてしまう優秀な搭乗員が勢揃いしていることが一番の違いだと感じております。」


「なるほど、搭乗員次第ということか。確かに君達の技量が素晴らしいことを実感しているよ。これからも頼むぞ!」

「ハッ!」


そして草鹿参謀長が伝える!

「それでは諸君!次の命令を伝える!」

全員に緊張が走る!


「諸君はこれより、淵田隊長の指揮するオアフ島爆撃隊の護衛任務についてもらう!」


「当初の目的であった空母エンタープライズ攻撃については未だ発見出来ていない。索敵機の報告によると、予想海域は雨天で雲量が多くて視界が悪く、発見は困難であるとのことである。空母エンタープライズは敵ながら強運を持っているようだ。」


「従ってこれは断念し、最終目標であるオアフ島軍事施設の攻撃を行う!」


「現在急ぎ爆装を指示したところだ。約2時間後には出撃させたいと考えている。何か質問はあるか。」


板谷少佐が質問する。

「規模はどの程度の攻撃隊となりますでしょうか。」


「うむ、制空隊36機、艦爆36機、艦攻36機の総数108機の予定だ。」


「実はオアフ島から駆逐艦を中心とした水雷戦隊二個艦隊が南下を始めたと知らせが届いた。」


「我々を目指してくるのに間違いなく、攻撃隊を残しておく必要があるのだ。それなので予定より少ない戦力ではあるが、なんとか頼むぞ。」


「ハッ!全力でやらせていただきます!」


「以上解散!」

「敬礼!」

ザッ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る