第101話 相まみえる
爆撃機の速度は遅い。
特にB18ボロ爆撃機は旧型で、時速350キロ付近が精一杯の模様だ。
単独行動となると一際その遅さが目立ち、激しく動き出した戦場においてはまるで止まっているようだ。
零戦隊は素早く旋回し、小隊ごとに散開する。
ここでP40とP36が後れ馳せながら現れ、零戦隊と激しく鍔迫り合いが始まる!
別動の零戦隊は爆撃機を反復攻撃する!
爆撃機は1機、また1機と海面に向けて墜落してゆく。
アメリカ陸軍戦闘機隊も奮闘し、日米初合わせて80機近い戦闘機同士の大規模空中戦となったが、その結果は日本が圧倒的であった。
その気迫は同等、激しい殺意をたぎらせて日本風に言えば巴戦、アメリカ風に言えばドッグファイトに突入していった。
しかし、気迫は同等であっても、それ以外の条件は大きな差があった。
日本は十分な準備を重ね、奇襲効果も継続して戦機を逃さず、対するアメリカは全てが後手に回り戦運も無く、天の利は圧倒的に日本。
日本は母艦近く、アメリカは陸軍機で帰ることも覚束ない遠い海上での戦闘であり、地の利も日本。
日本は歴戦の強者が綺羅星のように揃うが、アメリカは初陣の兵も多く人の利も日本。
そして最後に、三菱重工業主任設計者である堀越二郎氏が中心となって作り上げた零式艦上戦闘機は、世界最強の性能を発揮し、平凡な性能のアメリカ軍戦闘機を完全に駆逐してゆくのであった。
それら状況を考えると、アメリカ軍に勝ち目など無かったのである。
鈍鈍鈍鈍鈍鈍!
20ミリ機関砲が吸い込まれて行き確かな手応え!
三位一体の攻撃を済ませ、私が振り返ると、敵爆撃機が操縦席を破壊されて緩やかに墜落を始める姿を捉えた。
「三つ!!」
私は撃墜数を叫びながら全方位を見渡す!
後方にP40が3機!背中がゾクリとする!
だがあえて引き付ける!次の爆撃機も視野に収めておく!
今だ!
引き起こして左急旋回!三番機が狙われる!
「それは甘いな!」
神鳥谷は完璧なタイミングで敵弾を避けつつ、完璧な操作で一瞬で後方に回り込み見越し射撃!
鈍鈍鈍鈍鈍鈍!
馬脚!漠喰!
1機に20ミリ弾を見事に命中させる!
「・・・・」
思わず見惚れる動作。あいつ、成長早すぎだろ。
もう1機は二番機と格闘戦に入る!
油断するなよ!私にもP40が肉薄してくる!
私の左急旋回に着いてくる。敵機の動きに既視感、デジャヴを感じる。
私は急上昇に移り後方の敵機を意識しながら頂点に至る!
そして私の必殺技!全神経を集中し、操縦桿、スロットルレバー、フットバーを操り、零戦は大空のドリフトを始める!
凄まじいGがかかる!
「どうだ!」
目の前に・・・現れない!どこだ!
ゾクリ!!
ヤバイぞ!死神が鎌を振り下ろすのを感じる!
フットバーを踏み込み僅かに滑らせる!
弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾!!
「ウオォォォ!」
避けロォ!!
更に最大加速ドリフトォ!!
翼が軋む!体内の血液が移動する!
このとき、偶然だがお互いの機体が上下逆さまに向き合い、お互いに見上げる形で一瞬、ハッキリと目が合った。
コイツやるな、血走ったいい眼をしてるぜ。
相手は僅かに笑みを浮かべた。それを見て気付いた、私も笑みを浮かべていた。
その交錯は随分長いように感じるが一瞬。
弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾!!
缶缶缶感!!
敵機に命中弾!
戦列に戻った神鳥谷が遠目から7.7ミリを撃ち込んで援護に来る!
有難いが、もう少しサシでやりたかった・・・・いや、これは戦争だ!
奴は不利を知り一瞬で急降下、急速に離脱を図る。
私も追うが、急降下では奴との距離は離れる一方だ。
途中て追撃を諦める。今は爆撃機の撃墜が優先だ。
あいつは生きて戻ってきた。ならばまた戦うこともあるだろう。
その数分間の戦闘で大型爆撃機は数を減らし傷付きながらも7機が艦隊上空に到達した。
そのうち5機は早々に狙いも無く爆弾を投下して逃走!
2機が艦隊の弾幕に突撃し決死の爆弾投下をしたが、空母の回避行動で至近弾一発が凄まじい水柱を上げたのみ、将兵の心胆を寒からしめる結果となった。
この勇気ある爆撃機は、その見返りに激しい対空砲の餌食となり、そのまま海中に没することとなった。
生き残った敵は少数。
我々零戦隊は、戦略的にも戦術的にも完全に勝利したのである。
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