第41話 着艦

我々の母艦は空母機動部隊の旗艦である赤城だ。

艦橋が左側にあり、飛行甲板の後部に、大きく「ア」と書いてあるのが特徴で判りやすい。


徐々に接近すると、甲板上は先に着艦した攻撃機の収容などで大忙しの様子だ。


速度を落とし、通過しながら係員の着艦指示を確認すると、着艦可能とのこと。


私は手順通り、降下のアプローチを開始し、周囲を旋回して艦尾に回り込む。


空母への着艦の特徴は、陸地に例えれば滑走路が前に進んでいるということだ。

逆に言えば、前に進んでいないと着艦はまず出来ない。


空母は向風のなか、時速約50キロで航行中だ。波は穏やかで艦の上下は少ない。

空母上空向風の風速は秒速約8メートル、時速換算で約30キロメートルだ。


私は速度を約150キロに落とし、どんどん高度を下げてゆく。

車輪と着艦フックを出して係員に確認する。

作動ヨシ。


着艦指導灯を見る。

赤と青のライトは綺麗に並んでおり、進入角度ヨシ。


目の前に甲板の先端が迫る。波の影響で甲板が上下するので動きを合わせるが、このときがぶつかりそうで一番怖い。


甲板の先端上空約5メートルを時速90キロで通過!


空母との相対速度は時速40キロなので、零戦は飛行甲板上を1秒に約10メートル進む。向風もあるので、着艦の猶予は5秒以上ある。


私はエンジンを止めて滑空に移ると、機体は失速してストンと飛行甲板に接地し、すぐに着艦フックが制動索に引っ掛かり、ぐぐっと急制動がかかる。

機体はすぐに停止。係員が数人駆け寄ってくる。


お疲れ様です!敬礼を交わす。


係員は機体に取りつき、押して移動させ始める。


ゆっくりと動かされる機体。操縦席から空を見上げる。


生きて帰ってきた。


すごく、疲れた。

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