第37話 神の裁定

私は後方の奴に全神経を集中させ右急速旋回させる!

すぐに奴もついてくる!


即座にロール!左旋回!一瞬遅く奴も来る!


弾弾弾弾弾弾!


一瞬交差するタイミングで12.7ミリ弾を撃ち込んでくる!


当たるかよ!


私は更に急降下、急上昇を織り交ぜて戦闘機動を行う!


弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾!


奴は大量の弾丸をばらまきながら追従するが、零戦の機敏な動きに対応出来ず、少しずつ離れてゆく!


弾弾弾弾!弾弾弾弾!頑!


しかし、奴の方も私の動きに慣れてきたのか、僅かに喰らってしまう!


P40は機動性が少し劣るが、攻撃力が高い。

しかも奴はかなりの技量。必ず仕留める!


次は私の番だ!ついてこい!!


私は叫びながら操縦桿を引き付け、左上方向の急旋回に移る!

激しいGで体内の血液が下降するのを全身の筋肉を総動員して押し止める!


振り返ると奴も必死の形相で追従してくる!


零戦は急上昇で運動エネルギーを急速に失いながら頂点に至る!


この一瞬、私は全神経を集中し、操縦桿、スロットルレバー、フットバーを操る!


零戦はそれに応えるように、大気をかき分け、大空のドリフトを始める!


奴から見ると、零戦が突然旋回半径からはみ出し、視界から消失しただろう。


しかしどうすることも出来ない!奴はそのまま急旋回を続ける!


私はドリフトをしながら、奴の旋回半径に合わせて機体を捻り込んでゆく!


そして、奴と交差する!


私の目前に急旋回中のP40がその姿を晒した!


照準は旋回の先!

全神経を集中!

撃つ!


弾弾弾弾弾弾弾!鈍鈍鈍鈍鈍鈍!


馬脚馬脚馬脚馬脚!!


右翼から後部にかけて激しく命中!


破片が散乱、翼は炎上し、空の獣は急速に力を失う。


私は急速に死につつあるP40を追い抜きながら操縦席を伺うと、奴と一瞬目が合う。


年齢は私と同じくらいか、憤怒の形相で私を見ると、まだ私に機首を向けようとしてくる!


私は本当に咄嗟の事であるが、奴に向け脱出するよう風防を指した。


翼はすぐに折れ、錐揉みになると脱出できなくなる。


戦いは決着したのだ。私の必殺の一撃を僅かにかわしたのも見事だ。

ハワイの神は勝敗の裁定を済ませたが、死ぬことは望まなかったのだ。


奴は自機の状態に気付き、風防を開けて脱出すると、待っていたかのように翼が折れ、機体は錐揉みして落下していった。


ハワイの空に、一輪の花がフワフワと咲いた。





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