第29話

私達は翼を振りながら、隊長機である九七式艦上攻撃機に接近する。


第二次攻撃隊隊長は、嶋崎少佐である。口髭もあり厳つい顔つきであるが、それにも増して凄まじい気迫を放っている。


私は第一次攻撃隊の戦果と湾内の現状について手信号で報告する。


よくやった。あとは任せろ、帰投して次に備えろ。


了解。


私は手信号を送ると、お互いの気持ちが通じた気がして、視線を交差させて相互に敬礼する。


嶋崎隊長は敬礼を終え、右手を下げて視線を真珠湾に向けると、その眼差しから放たれる気迫とともに命じる!


全軍突撃せよ!


第二次攻撃隊は、素晴らしい反応を見せ、一瞬で各隊が翼を翻して各々目標に向けて戦闘加速を開始する!


私達は万感の想いを込めて敬礼を続け、その勇姿を忘れるまいと脳裏に焼き付けた。


第二次攻撃隊は飛行場攻撃班と艦隊攻撃班に別れてゆく。


艦隊攻撃班は湾内を漂う黒煙で標的を絞り難いなか、狙いを定めて攻撃位置をとる。


第二次攻撃隊の九七式艦上攻撃機は魚雷ではなく、800キロ爆弾を吊り下げている。


これを高度3000メートル付近を水平飛行して、爆弾を投下するのだ。


800キロ爆弾の直撃は戦艦の主砲と同等の威力であり、巡洋艦以下なら粉砕が可能だ。


しかし、水面下で爆発する魚雷と異なり、装甲の厚い戦艦を撃沈するには数発の直撃が必要であった。


攻撃隊が湾内に近付くにつれて、いたるところから凄まじい対空砲が撃ち上げられてくる。


我々のときはなかった対空砲火の濃密さだ。


遠くに見ると、重力が反転して、地上から上空に豪雨が昇っているように見えた。








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