第21話
敵戦艦は緩やかに、力強く、自ら波を作り出しながらその巨体を進ませてゆく。
はるか上空から見ても、その巨体の存在感は圧倒的だ。
それに対して特殊潜航艇はとても小さく見える。
まるで木の葉が水面に浮かんでいるようで、発見されれば機銃掃射で簡単に沈められてしまうだろう。
しかし、その木の葉は高い技量と強い意思をもって船首を戦艦の進行方向に向け始めており、あと数分待てば、敵戦艦が横腹を晒す最良の魚雷発射角度が得られそうであり、特殊潜航艇のパイロットもその必中の瞬間を待っているようであった。
いいぞ、今発射してはダメだ、待つんだ。もう少しだ。
私は不規則に零戦を操りながら呟き、特殊潜航艇の動きを注視した。
特殊潜航艇はじっと待つ。戦艦が前方を横断するように差し掛かるのをじっと待つ。
戦艦の甲板上には消火活動や、対空砲を撃つ水兵が多数走り回っている。
あの水兵は私たち零戦隊6機を気にしており、相変わらず有効射程外の我々に対空砲を撃ち込んでくる。
そうだ!そのまま私を狙ってろ!
私は連装対空砲を撃つ敵兵が、背後を狙う特殊潜航艇に気づかないよう、その気を引くような回避行動を取った。
待つ、待つ、耐えながら待つ。
もう少し。もう少しだ。
ちょっと早いけどもう発射してもいいぞ、射角は十分だ。
お前、発射したら潜るんだろ?早く撃たないと潜る暇ないぞ!
ちゃんと見えてるのか?早く撃て!そして潜れ!
………わかったよ。
お前は完璧な角度で撃ちたいんだよな。
………たとえ死んでも。
しかし、もう僅か少しのところで、消火活動中の水兵の一人が特殊潜航艇の潜望鏡を発見したようで、指差して4連装機銃の射手にアピールを始めた!
まずい!射手は私に向け一心不乱に射撃しているが、このままではすぐ気づかれる!
あの射撃を受けたら特殊潜航艇は木っ端微塵だ!
行くしかねぇ!
あいつの思いを無駄にさせられるかよ!
私は敵の4連装対空砲に向けてスロットル全開でダイブを開始した!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます