第4話 ※事後描写有り
外から小鳥の様な鳴き声が聞こえ、小さな窓から朝日が差し込む。朝が来たらしい。
私はまだ夢と現実の狭間に居た。
「おい。起きろ。……また犯すぞ」
隣で聞こえた声に思わず飛び起きる。
彼も自分も服を着ていないことに気付き、頬を染めて後退る。
「おーおー、昨夜はあんなに大胆だったっつーのに、今日は随分と大人しいなぁ?」
そんな私の様子に彼はクスクスと笑い、茶化すように言う。
「うぁー!知らない知らない!私は何もしてないです!」
昨夜の記憶が鮮明に蘇り、薄っぺらい毛布に身を包むようにして声にならない声を上げる。
昨晩の事を無かったことにする、その私の様子が気に食わなかったのだろう。あろうことか私の身を守ってくれていた唯一の毛布を剝がしてきたのだ。
私の身体が彼の前に晒された。なんだろう、この感じ……まな板に乗せられて捌かれる直前の魚の気持ち。
彼の喉がごくりと鳴った様な気がした。
「なぁ、……犯「絶対駄目です!」
その先は言わせなかった。私は身体を片腕で隠しつつ、毛布を取り返そうともう一方の腕を伸ばす。毛布を掴んで此方へ手繰り寄せようとするが、びくともしない。
寧ろ、毛布を揺らして此方をからかっている。下手したら毛布と一緒に持ち上げられそうな感覚がして、私は思わず手を離した。
私は慌てて床にくたくたになって転がっている自分の服を手に取り、部屋の隅に逃げ込む。隅の方を向いて、慌てて着替えようとする私の背中に彼の視線が突き刺さる。
その視線を無視して着替え終わると、やっと諦めてくれたのか、彼も自分の服を手に取りゆったりとした動作で着替え始めた。
やっと諦めてくれた……と胸を撫でおろす。することもない私は、シャツを着ようとしている彼に視線を向け観察していた。
全体的に筋肉質だ。割れた腹筋なんて彫刻の様だ、なんて考えていたらパチッと視線が合った。
「なんだ、俺に見惚れたか?」
彼は癖なのか口端だけ上げる笑みを浮かべた。こういう時イケメンってずるい。胸の高鳴りを隠しつつ、私はその問いに頷いた。
一瞬彼は驚いたような表情をするも、また彼は笑った。
今度は口端だけで笑うのではなく、大きな口を開けて笑った。
初めて私が見る表情。それが何だか嬉しくて、私も笑みを浮かべた。
甘い雰囲気が漂う。着替えが終わった彼はふと思い出したように問い掛けた。
「あ。お前、名前は?俺はレルフ。好きに呼べ」
そういえばお互いに名前知らないんだった。そんな……私は名前も知らない男性と?いや、でも今名前知ったから…ノーカン!って事で。
色々と考えることは有るが、まぁ良いか。と勝手に自己解決する。
「私はミラエルです。宜しくお願いしますね、レル。」
にっこりと笑みを浮かべ、握手しようと手を差し出す私の前にレルフは跪いて手を包み込むように重ね、手の甲へと口付けをした。
「俺の命に代えてでも、ミラエル。お前を絶対守ってやるよ。だから俺以外に靡くな」
思わぬ行動を取ったレルフに、驚く。
しかし、彼の紡ぐ言葉は私の脳へと甘く響くように入ってくる。私は微笑みながら頷いた。
「靡かないです、だから……。絶対裏切ったり、レルも私以外の女の子見ちゃ嫌ですよ」
「はっ、俺はミラ以外に興味なんか無ぇ。それに……俺はこの世界では災厄と言われる物だ。近付いて助けたりする物好きなんてミラ位だぜ、ほんと」
私の言葉にレルフは鼻で笑い飛ばし、断言しきった。
でも…
「もし、私みたいな物好きが他に現れたら……他に行っちゃうんですか?」
そう言った私は重いだろうか。つい言葉にしてしまった事を後悔した。
ちらりとレルフの方を見ると、嬉しそうにニヤついている。
「へぇ、ミラもそんな風に嫉妬するんだな。でも思ってくれてんなら話は早ぇ。」
言うが早いか、いきなりレルフに抱き締められた。
「レル……?っ…いた、い……です」
右の首筋にいきなり噛みつかれ、私は痛みに顔を顰める。
レルフが噛み終わった後もじくじくと熱が篭った様に痛い。
何をされたのか分からない私に、レルフは「これで俺だけのモンだ」とギラついた瞳で噛み痕を凝視していた。
噛まれっぱなしで腹が立った私は、レルフに飛びつくと私とは反対の左の首筋へと歯を立てた。
怒るかなぁ、なんて思ったがレルフは寧ろ嬉しそうに私の頭を撫でてくる。
なんなんだ。なにこれ、なんで噛まれて喜んでるんだろう
そう思ったと同時に、私がレルフに付けた噛み痕は真っ赤な薔薇の花びらの紋章に変わった。
「これで俺達、番だな。念のため言っておくが俺以外の奴に絶対噛ませんなよ」
番?つがい?TUGAI?
頭が?で埋め尽くされていく。私、もしかしてまたやってしまった……?
……まぁ、良いか。もう考えることに疲れた私は、嬉しそうなレルフを微笑んで見詰めていた。
するといきなり視界がぐらついた。思わず倒れそうになる私をレルフが支えてくれる
何だろう、いきなり熱っぽくなってきて……頭……が、………。
意識が闇に沈む瞬間、レルフの心配そうな顔が最後に見えた。
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