第3話 ※微性描写


フリットランへの道のりを歩いている最中の出来事。


「よし、もう少しでフリットランに着くぞー!」


この異世界での初めての町に意気込んでいると、草むらからガサガサと何か物音が聞こえ、思わず飛び上がる。驚いた拍子に全身の毛が逆立つのが分かった

護身用として、しろとくろに貰ったレイピアを構える


がさり、そう音を立てて崩れ落ちてきたのは漆黒という言葉がぴったりなほどに真っ黒な毛並みの大きい獣人だった


「逃げない、と……殺され……て……」


そう苦しそうに言葉を洩らし、その場に倒れた獣人を見て私は青ざめた。

殺される……?なんで?怖い。逃げないと。しかし、その漆黒の獣人は声を掛けても苦しそうな声を洩らすだけで目を覚まさない。

茂みの向こう側から怒鳴り声が聞こえる。きっと、この獣人は捕まったら本当に殺されちゃう。でも、もし悪い人だったら……。

ぐるぐると巡る思考に、私は覚悟を決め叫んだ。


「しろちゃん、くろくん!!お願い!!この方を助けてあげて!!!」


そう叫ぶような私の祈りに、しろちゃんの声が聞こえた。


「ミラエルに呼ばれて私がきてみれば……大変そうですね。でも、くろじゃなくて私が来て良かったですね」


何故しろちゃんで良かったのか、なんて今はどうでもいい。

早く、早くしないとこの獣人さんが……!


「しろちゃん、助けて…お願いします」


ふわりと宙に浮かんで此方をじっと見つめるしろちゃんに、自然と私は跪き祈りを捧げるように手を組み合わせ願った。


その瞬間、真っ白な光とともに私達三人の姿はその場から消えた



光が収束するとしろちゃんの姿はもうその場に無かった。

辺りを見回せば、木で出来た小屋の中の様だ

どうやら此処はもう使われなくなった冬越し用の小屋らしい


「ぅうっ……」


助けた獣人がうめき声を上げつつ身体を起こした。

私は慌てて駆け寄り、様子を見つつ声を掛けた


「あの……大丈夫、ですか?」


声を掛けたことにより私に気付いたのか、初めてその人は此方を見た。

目と目が合った瞬間、何かが全身に駆け巡るのが分かった。

真っ黒な毛並みに深紅の瞳。


「……綺麗。」


思わず私の口から出た言葉。その言葉にその人が驚いて目を見開く。

深紅の鋭い瞳がまん丸と見開かれるも、直ぐに目を伏せ視線を逸らされた。


「お前は俺が怖くねぇのかよ。俺は災厄と言われる物全部揃ってんだぜ」


彼はそう吐き捨てる様に言った。

私は彼の言葉に首を傾げる。


「どうして貴方が災厄なんですか?毛並みはとても綺麗な黒色だし、瞳だって薔薇の様に真っ赤でとても素敵だと思うけれど。」


彼はその言葉にまた驚くも、大きく溜息を吐いた。

暫く考える様に頭を抱えていたが、それを振り払うように首を振ると、力無く笑みを浮かべた。


「常識と警戒心が足りなさすぎるぜ、神の加護持ちさん。俺が盗賊や奴隷売りだったら直ぐにバラされるか、売られて変態の元で監禁コースだぜ」


彼の口から出てくる物騒な単語に、思わず顔を顰める。

勢いで助けてしまったけれど、どうやら悪い人ではないようだ

でも、なんであんな事になっていたんだろう。加護持ちって事も直ぐにバレてしまったし…

私は思い切って彼に聞いてみた。

何故あの状況になっていたのか


彼は先ず私の事について教えてくれた。白い毛並みの意味、紫の瞳の意味。そしてそれらは性別問わず誘惑する物だから気を付けろ、と。

自分より私の心配するなんて、変なの。


そしてこの世界では完全な黒の毛並みの者は異端で迫害されるらしい。

そして普通は産まれる前に無かったことにされるらしいが、彼の母はそれをせずに育てていた。しかし母が亡くなり、暫くして街の住人に見つかって通報されあの状況…

しん……、と部屋が静まり返る。


「まぁ、なんだ。この世界じゃ毛並みの色と瞳の色で全部判断されんだよ。でも加護持ちのお前なら、どこでもやってけるぜ」


それだけ言うと、彼は立ち上がり小屋から出ていこうとする。

きっと行く充ても無いのだろう。それでも私を気遣ってくれるその優しさに、どうやら私は絆されてしまったらしい。


「じゃあ、貴方はどうするの?私がやっていけても貴方は……それに今は夜ですよ、もし何かあれば……」


そこまで言った私の次の言葉は掻き消された。

目の前には燃える様に赤い深紅の瞳。

あ、私キスされてる。


そう思うにはもう遅く、私の小さな口を抉じ開ける様に長い舌を捻じ込んでくる。

私は必死に唇を噛み締める。すると私より何倍も大きな手が首元へ滑り込んできた

頸動脈をゆっくりと、締め上げてくる。

最初は噛み締めていた唇も、呼吸できず次第に開いていった。


その隙を見て彼の舌が私の口の中へと侵入してくる。お互いの舌が絡み合い狭い小屋の中で水音が響く。自分も獣人化して五感が敏感なせいか、音がやけに響きく

彼の舌は長くて、このまま食べられる、と思い私の身体は硬直してしまう

その様子を見た彼はゆっくりと顔を離し、濡れた自分の口元をその長い舌で舐めた


「はっ、これでも十数年単位一人で生きてんだ。子猫のお前に心配される筋合いは無ぇよ。それよりお前は自分の心配でもしてな。そんなに無防備じゃ今みてぇに襲われても文句言えねぇぞ。」


私は足りない酸素を求める様に荒く呼吸しているだけで何も言い返せず、僅かな抵抗とばかりに少し潤んだ瞳で彼を睨みつけた。


「はぁ、あのなぁ……そういうの、威嚇じゃなくて煽るって言うんだぜ。後、忘れてるかも知れねぇが、お前の毛並みと瞳は黒に近い毛並みの奴程効果が強い。こっちだって抑えてやってんのに煽んの辞めろ。お前に酷いことはしたく無ぇ。」


そう言われてしまえば、私は言い返せずに俯く。

その代わり、彼の服の裾を軽くつまんだ。


「あ?何のつもりだ」


彼は私の行動に眉間に皺寄せるも、振り払おうとはせず私の次の行動を待ってくれた。

私は一呼吸置いて、顔を上げて言った。


「私も、貴方に着いて行きます。」


「本当に来んのか?俺に襲われるかも知れねぇぞ。」


彼は脅す様に此方へ顔を近づけてくるも、私は折れなかった。


「着いて行きます。それに、もし他に襲われるくらいなら……貴方がいい。それに、一緒に居ればもし私に何か有っても、貴方が守ってくれるでしょう?」


彼はくくっと喉を鳴らし笑うと「上等だ」と、私を抱き上げ薄っぺらい布団にもならないような所へ押し倒した。

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