第8話

はい、私は猫です。猫、猫だから…


リードを付けられる時は苦痛だった(精神的に)

誰も知らないけれど、私見た目猫でも中身人間なんだよ!?

そりゃ羞恥心やらなんやらで逃げたくもなるよ…


でも私は我慢した。姿だけでも見せればきっと飼い主だって安心するはず!

だから私はリードなんて…へっちゃら…じゃないけれど、頑張ったから取り敢えず後でチュールでも強請ろう


そうして私は今!念願のお外です!

いやはや、長かった…。


取り敢えずは自分の好きなところに行かせてくれるらしい

私が先頭を歩いて、後ろから薫さんがついてくる感じで進んでいる


見たことのない景色、違う町とかに来てしまったのかな

もし違う町なんだとしたら…望みは薄い

どうしようかな、と思いつつ進んでいると薫さんの足がぴたりと止まり、繋がれている私も必然的に足を止める

薫さんは電柱を見詰めては、苦虫を噛み潰したような顔をしている


私は薫さんの近くへ行き、薫さんが見詰めている電柱に目を遣る


「この猫探してます」そうでかでかと書かれた文字の下には私の写真

その下には連絡先や、特徴などが書かれている


これは…!帰れるかもしれない!

しかし、薫さんの次の一言で私の希望は崩れ去った。


「猫ちゃん、もう帰ろうか。早く帰って猫ちゃんの好きなおやつタイムにしよう?」


あれ、えーっと…連絡はしてくれないんですかね…?


薫さんは急ぐように私を抱き上げ、今来た道を戻っている。

後、あと少しだったのに…!


きっともう外には出してくれないであろう事を察した私は逃げようと爪を立てる

初めて人に攻撃というものをしたかもしれない。

私が爪を立てた薫さんの手の甲からは、薄っすらと血が滲んでいる

しかし薫さんは顔を歪めるだけで、何も言わない。無言で足早に家へと向かっていく


嗚呼、もう駄目だ


「みぃちゃん…?」


「みゃぁ」名前を呼ばれ、思わず返事を返す。


「みぃちゃん!!!」


私の名前を呼んだ、私の飼い主。

要が私と薫さんの元へよろけながらも全力で走り寄ってきた

私が最後に会った記憶より、随分とやつれている。目の下の隈も酷い。

此方へ向かってくる足取りもフラフラで、見られたもんじゃない


私は心が握りつぶされる程の罪悪感を感じた。

私のせい、だよね。


「みぃちゃん…やっと、やっと会えた。ごめん、ごめんなぁ」


そう言ってボロボロと涙を零す要。

薫さんの元から抜けだそうと身を捩る。

そして薫さんの表情が見えた。いや、見えてしまった。

いつもの優しい笑顔ではない、冷徹な笑みを浮かべている。



そして


「みぃちゃん?この子は僕の飼い猫なんだけど…人違い、いや…猫違いじゃないかなぁ?」


薫さんはそう言い切った。要は一瞬ぽかんとした表情をしたが、次の瞬間には怒りの形相に変わっていた。


「ふざけんな!!」

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