第14話 事件性

「なんかまた警察が来てるな」

 いつものように連れだって登校してきた真人たち三人が校舎に入ると、朝から警察や鑑識の人間が校内に出入りしている姿が見えた。

「なんだよ。またなんかあったのかよ」

 真人が、眉根を寄せる。普段見慣れない光景に、何か特別な空気を感じ、登校してくる生徒たちはどこか不安になっている。

「ああ、そうか」

 その時、石村が何かを思い出したみたいに声を上げた。

「なんだよ」

 真人と木田が石村を見る。

「前に飛び降り自殺があっただろ」

「ああ」

「あれが、どうも事件性があるとかなんとかって話が出てるんだよ」

「事件性?」

 真人が石村を見る。

「つまり、他殺かもしれないって話だよ」

「マジか」

 真人と木田が驚く。

「ああ、なんか不審な点があるらしい」

「不審な点?」

 真人が訊く。

「そこまでは俺も詳しくは知らないけど、なんか、飛び降りた二人以外に誰か現場にいたらしい」

「誰だよ」

 真人がさらに訊く。

「それは知らねぇよ」

「それ、なんかめっちゃ怖ぇな」

 そこに木田が言った。

「ああ、他殺だとしたら犯人まだ捕まってないんだぜ」

 石村が言った。

「ああ、そうだな」

 真人もそこで気づく。

 生徒が二人、深夜に校舎の屋上から飛び降りるという事件は、生徒が二人とも一年の女子生徒だということ以外、まだよく分かっていない。動機も、なぜ二人が深夜に校舎の屋上にいたのか、二人がどういった関係だったのかも謎だった。二人は同級生で、仲がよかったということは、分かっていたが、なぜ二人が自殺をしなければならなかったのかは、誰も分からなかった。二人の同級生たちも、こぞってそんなそぶりも雰囲気もなかったと言っていたし、両親もまったく心当たりがないと言う。自殺したその日も、二人は、学校にいつものように登校して、休み時間には二人で談笑していたことが目撃されている。

「他殺だったら、マジやべぇな」

 石村が大仰に言った。

「ああ」

 木田と真人もうなずいた。


「そう言えば、先生遅いね」

 亜理紗がそう言うと、全員が時計を見た。その日の朝のホームルーム、時間になっても担任の佐川が姿を現さない。

「確かに、遅いな」

 石村が後ろの真人に振り向く。

「ああ」

 もうとっくに、朝のホームルームの始まる時間になっていた。真人も不思議そうに答える。こんなことは一年半の高校生活の中で今まで一度もなかった。生徒たちの間に、動揺が走る。

「なんかあったのかな」

 石村が真人を見る。

「分からん」

 真人にも分からなかった。

 その時、担任の佐川が入って来た。クラスが一瞬静まる。

「神居ちょっと」

 入るなり佐川はいつになく険しい表情で、教室の片隅に静かに座っていた真希の方を見て手招きした。教室が水を打ったように静まり、全員が真希を見る。しかし、真希は何かもう察しがついているかのような落ち着きようで、静かに立ち上がった。

「お前らは自習していろ」

 佐川はそう言い残し、真希を連れ、教室を出て行った。

「何があったんだ?」

 石村が後ろの真人にふり返る。

「俺が知るかよ」

「飛び降りに関係しているのかな」

「なんで、あいつが関係してるんだよ」

「それは知らねぇけど、朝からのこととか考えたらつながらねぇか」

「・・・」

 確かに、そう考えるのが自然だった。しかし、なぜ真希が・・。

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