第10話 続く事件

「何事だ?」

 真人が学校に近づくにつれ、パトカーの赤色灯や警察官、そして、校門の前に集まるたくさんの人々が見えた。その中には、テレビカメラや明らかにマスコミ関係と分かる人間も多くいた。

「なんで、パトカーとか警察が来てんだ?」

 校門前には多くのパトカーや警察官、野次馬の人間がいて、ごった返していた。真人は野次馬たちの脇を縫うようにして校門から中に入る。

「なんだ?」

 真人は校門を入ってさらに驚く。校庭にはパトカーが何台も止まり、校舎の前には警察官や鑑識の人間とおぼしき人間が何人もうろうろしている。

「・・・」

 真人は他の生徒たちと一緒に遠巻きにそれらの光景を呆然と見つめた。

「何が起こっているんだ・・?」

「おうっ、真人」

 その時、突然横から声をかけられた。

「おっ」

 見ると、それは木田だった。

「おうっ、木田、どうしたんだよこれ」

 慌てて真人が木田に訊く。

「お前知らねぇのかよ」

 木田が少し驚いた顔で真人を見る。

「何が」

「ほんとに知らねぇのか」

「だから何がだよ」

「昨日、飛び降りがあったんだ」

「飛び降り?」

「飛び降り自殺だよ」

「どこで」

「ここで」

「ここ?」

 真人が、あまりのことに間抜けな顔で木田を見る。

「ああ、昨日の夜だよ。メールしただろ」

「メール?」

 真人はポケットから携帯を取り出した。真人は親に反対されスマホは持たせてもらえず、未だ携帯だった。しかし、別にそういうことに興味のなかった真人自身は別段気にすることもなかった。

「あっ」

 真人は自分の携帯の履歴を見た。そこには、木田と石村の両方からメールが来ていた。

「あっ、じゃねぇよ。お前は本当にメールの返信率悪りぃな」

 真人は老人並みにあまり携帯を見ない。

「それにしてもなんで知らねぇんだよ。滅茶苦茶ニュースになってたぞ」

「そうなのか・・」

 真人は全然知らなかった。

「お前はほんとそういうとこ疎いよな。学校の勉強はできるくせに。もう少し情報に敏感になれよ。敏感に」

「ていうか、ここで自殺ってどういうことだよ」

「だから、昨日の夜に女子生徒二人が飛び降りたんだよ。学校の屋上から」

「誰だよ。その二人って」

「さあ、それはまだ分かんねぇけど、この学校の生徒らしいぜ」

「マジか・・」

 真人は校舎の上を見上げた。

「・・・」

 真人は普段あまり意識することのなかった校舎のその高さを見て、思わず息をのんだ。校舎は鉄筋コンクリートの五階建。屋上から落ちればまず助からない。運良く助かったとしても、ただでは済まないだろう。

「・・・」

 真人はそこから落ちる自分を想像して身を震わせた。


「しかし、なんか続くな」

 後ろの真人の席にいつものように、体ごと振り向いている石村が言った。朝のホームルームが始まる前の自由な時間。教室の中は、昨日起こった飛び降り自殺のことで話題は持ちきりだった。

「ああ、この前は交通事故だろ」

 二人の席に来ていた木田がうなずく。

「今までこんなことあったか?」

 真人が二人を見る。

「ないなぁ」

 二人も首をかしげる。

「この学校で三人も死んだんだぜ」

 真人が信じられないといった表情で言った。

「ああ、しかもここ一か月くらいでだろ」

 木田。

「ああ」

 二人がうなずく。

「なんか怖ええな」

 石村が言った。

「ああ」

 真人が答える。

「それにしても、真希ちゃんは今日も一人だな」

 石村が、窓辺の机に一人座り本を読む真希を見つめて言った。みんなが自殺の話でざわつく中、真希はやはりいつも一人で、自分の机で本を読んでいた。

「お前は、ほんと好きだなぁ」

 真人が呆れたように言う。

「一人の真希ちゃんもいいんだよ。見てるとさ。なんか、こう胸が切なくなるんだよ。なんか寂しい感じがさ」

「お前、マジ病気だな」

 真人が言う。

「愛と言ってくれ。愛と」

「はははっ」

 その物言いに、木田と真人が同時に笑う。

「でも、なんか妙な空気だよな」

 その時、木田が呟くように言った。

「ん?」

 真人が急に真剣な顔つきをする木田を見る。木田は女子グループを見ていた。

「お前何も感じないか」

 木田が真人を見返す。

「何ってなんだよ」

「お前はほんと鈍感だな。そういうとこ」

 木田が真人にツッコむ。

「何だよ」

 真人が木田を見る。

「女子たちの反応だよ」

「女子たち?」

「麻美たちが、かなり真希ちゃんのこと睨んでるみたいだぜ」

 ここ最近女子たちの空気がおかしかった。

「なんで」

 真人は全然分かっていない。

「なんでって、そりゃ、なあ」

 木田は石村を見る。

「ああ、そら、そうなるだろ」

 石村も木田を見る。ここに来て、女子たちの中には、愛想もなく周囲と馴染もうとしない真希に対して、少しずつ悪感情を抱く生徒も出始めていた。

「ああ?」

 しかし、鈍い真人には分からない。

「もういいよ。お前はそのキャラ一生やってろ」

 木田がそんな天然な真人に呆れ顔で言う。

「まあ、俺は何があっても真希ちゃん一筋だけどな」

 石村が言う。

「知らねぇよ」

 それには真人がツッコむ。

「世界中の人間が真希ちゃんのこと嫌いになっても俺は真希ちゃんを愛し続けるから」

「お前のそういう報告はいいんだよ」

 木田もツッコむ。そこでまた三人は笑った。

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