第26話
フォレストウルフの死体を集め終わったエクレール達は森を出て1時間ほど歩いた川辺に来ていた。
「この辺ならあの数解体しても大丈夫そうだな」
「じゃあ早速だけど頼むよ。」
剣士の男がそう言うとエクレールは空間魔法で死体をいくつか取り出す。
「はい!エクレールさんは適当に待っててください!このあたりはモンスターが少ないので、見張りも必要ないと思います。出てもゴブリン程度なので」
「少ないからと言っても見張りは必要だ。こんな辺境だと何処に何が出てもおかしくはないんだからな」
適当なことを言うエコーが盾持ちに注意されている。蒼空の鷹曰く辺境の地であるオルグでは街の近くでCランクやBランクのモンスターが出ることもしばしばあるのだそうだ。
「じゃあ私が探知の魔法で見張っとくよ。みんなは解体に集中してくれていいよ」
まぁ魔法を使うというのは嘘なのだが。元より龍であるので、意識せずとも周囲の状況は把握できている。鋭い五感と魔力感知能力によるそれは魔法では察知しきれないような些細なことまで把握できるので、周囲の警戒であれば魔法に頼らず自分の感覚に頼った方が信頼できると言うのが、これまで長いの人生、いや神生の経験則というやつだ。
私が見張りをするなら安心だと思ったのか盾持ちの男も解体の準備に移った。
解体を始めた彼らを見ながら、ここまで移動する中で話したことを頭の中で纏めていく。
まず蒼空の鷹について。
リーダーが槍使いの男で名はライル。
剣士の男の名はカート。
盾持ちの男がルド。
そして女の子二人の斥候がユラで魔法使いがエコー。
皆Dランク冒険者で今回のクエストを終えればCランクへの昇級試験を受けられるそうだ。そのクエストの帰りにフォレストファングに襲われているのだから災難だ。私が助けに来なければどうなっていたか。まあ運も実力の内と言うしこれからも頑張って欲しいところだ。
人のことだけ聞いて自分の事を話さないのもなんだと思ったので、私も自分の事を少しだけ話した。
昨日冒険者になったこと。ハザードに世話になっていること。他には師がすこぶる厳しい人だった位のことしか喋ってないが。
私が自分たちと同じDランク冒険者であることにとても驚いていた。
他に聞いたのは、有名な冒険者のことについて。
なんでも有名になると異名がつくそうだ。オルグにはこの異名を持った冒険者が結構いるんだとか。「神盾」だとか「爆炎」といったその人の武器や戦闘スタイルから取られることが多いそうだ。
それとランクはHからAまでだと思っていたが、その上にSランクがある。Aランク冒険者の中でも個人で1国家に匹敵するような力を持っていたり、人類史に残るような功績を打ち立てた者が籍を置くランクだそうだ。Sランクともなるとその権威は凄まじく、大国の王と対等の立場なんだとか。
ただ、Sランクに上がる者は数年に一人いればいい程度だから、実質的にはAランクが最高ランクになっているようだ。ともあれ、Sランクまで上げておけばなんのしがらみもなく活動できると考えれば目指す価値はある。下界での活動目標に追加するとしよう。
ある程度考えが纏まったので意識を解体中の蒼空の鷹に移す。もう何匹か解体は終わっているようでその手際の良さに感心する。この調子なら日が暮れるまでに終われるだろう。
そう考えた所で感知の端に何かを捉えた。
今日見た中で1番弱いだろうその反応はおそらくさっきエコーが言っていたゴブリンだろう。エクレールは解体の邪魔にならないよう気配を消し、捉えた反応の方へと走る。
するとそこにいたのは見るからにゴブリンといったような風貌のモンスターだ。緑の肌に小さな背丈。耳は尖っていて腹が少し出ているといったところか。この程度の相手であれば武器も魔法も要らないのだが、手を血で汚すのもなんだと思ったので魔法を使う。
「カグツチ」
「ギャ!?」
その一言で数体いたゴブリンたちは紫炎に飲まれる。
それは火の神である
その効果は燃やした物を灰にするまで消えない炎を生み出すというもの。エコーがゴブリンは数こそ多いが、素材として使える所もないし魔石も殆ど値がつかないとぼやいていたなと思いそのまま焼却してやろうという魂胆だ。
最弱の魔物といっても差し支えないゴブリンがエクレールの魔法に抵抗できるはずもなく10秒と経たないうちにその場にいた数体のゴブリンは灰と化した。
火が消えたのを確認してエクレールはその場を後にする。
解体をしている川辺まで戻ってくると、それに気づいたユラが声をかけてくる。
「あれ?さっきまでそこに座って…なにかありました?」
どうやら私がいなくなったことに気づいていなかったようだ。と言ってもゴブリン共がすぐに片付いたのでこの場にいなかった時間としてはとても短いのだが。
「ちょっと感知にゴブリンが引っ掛かったから倒しにね。素材にならないって話だから燃やして灰にしてきたけど」
「え、今から行くんじゃなくてもう行ってきたんですか?気づかなかった…」
「邪魔するのも悪いかなと思ってね」
「ユラ!ちょっとこっち手伝って!」
「うん!じゃあ引き続きお願いします!」
そう言うとユラはまた解体に戻っていった。
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