第24話
時は少し遡り
「さて、助けてあげよっか!」
エクレールはフォレストウルフに襲われている者達の元へ急ぐ。
普通の冒険者では半刻はかかる距離だったがエクレールに掛かれば数分でついてしまう距離だ。
襲われている者達が近づいてくると血の匂いが濃くなってくる。おそらくフォレストウルフのものだけでは無いだろう。龍であるが故5感もずば抜けて高いのだが、こういうあまり好ましくない匂いもよく拾ってしまうのはどうしようもない。
エクレールは戦闘の現場に近づくと、声音に魔力を込めて言った。
「伏せろ!」
この世界では魔言と言われる技術で魔言を扱う者を魔言師という。
声音に魔力を込めることで相手に自分の言葉を信じ込ませる技術。エクレールはこれも己が権能で極めているため、自分の言葉で相手を従わせるなんてことも出来る。
結果、今にもトドメを刺されそうな5人はその言葉が聞こえるとほぼ同時にその場へ伏せていた。
そしてエクレールは飛び出す瞬間、龍刀アルテマを抜刀する。
「神剣一刀流神威・疾風《かみつるぎいっとうりゅうかむい・はやて》!」
風の魔力を纏った不可視の斬撃が5人の頭上を走る。
5人にトドメを刺そうと飛びかかっていた5匹のフォレストウルフはその一太刀で真っ二つとなる。
ここでエクレールに疑問が浮かぶ。
確かサーチに引っかかったのは討伐対象の5匹だったのだが、周りにはまだまだフォレストウルフがいるし、これまでこの5人が倒してきた個体もいるから明らかに数が多い。
何故?と疑問に思うが今考えたところで仕方ないので周りに目を向ける。
後ろには負傷した5人の冒険者。それを囲むように多数のフォレストウルフ。客観的に見たら絶望的な状況だ。囲まれているのがエクレール以外であればだが。
フォレストウルフが続々と現れその数が10を超えた所で、フォレストウルフが襲いかかってくる。
エクレールはそれを迎撃する形になる。
5人を狙われると面倒なので、5人に魔法をかける。
「フルディスピア」
かけた物の気配や姿、匂いや音、果てには魔力といった存在を認識するのに必要な要素の一切を消し去る魔法。
よく修行から逃れるために使ったものだが、何故か先代にはすぐに見つかってしまった。
流石龍神としか言い様がない。
とまぁそんな魔法だがフォレストウルフ如きがこの魔法を見破れる訳もなく。
フォレストウルフは急に5人が消えて動揺していたが、すぐにヘイトは全てエクレールに向けられることとなる。
「そうだ、今度は魔法と刀どっちも使おうかな」
この世界に来てからの戦闘は魔法か剣術のどちらかしか使わない戦闘しかしていない。
そもそも神界でも剣と魔法を同時に使うことは殆どなかった。武器を持たず体術と魔法が主だったからだ。
丁度いいとエクレールは刀を振りながら魔法を使う。
刀を振ると5属性それぞれの矢が一つずつ現れフォレストウルフを穿つ。どの属性が効果的か分からなかったので、とりあえず基本5属性を使ったのだが、どの属性も傷跡が変わらないので、さして偏りはないようだ。
刀を振るたびに2匹、3匹とバタバタと倒されていくフォレストウルフ。
その数が20を超えた所で一際大きな個体が姿を表す。
気配を感じなかった。サーチで数を誤魔化されたのはコイツのせいだ。
エクレールはそう確信する。
確かモンスターには稀に上位種や希少種に進化する個体がいるとかなんとか。上位種であればその能力がより強化され、希少種であれば思いもしないような能力を得ていることもあるんだとか。
コイツはそのどちらかに違いない。
つまり強敵。
そう思うと自然と笑みが零れた。 龍神の戦闘本能とでもいうべきものか。
残りは大きなフォレストウルフ(後フォレストウルフ大とでも呼ぼうか)と普通のフォレストウルフが5匹程度。
エクレールとフォレストウルフ大は睨み合う。エクレールはいつでも斬り掛かれるが、あえてフォレストウルフ大の動きを待っている。
一方フォレストウルフ大はエクレールの隙をつこうとするがそんなものある訳もなく。
痺れを切らしたフォレストウルフ大が動こうとした瞬間、エクレールの手元が揺れる。
「
その声がした直後、フォレストウルフ大を含めた残りのフォレストウルフの首がストンと落ちる。
「やっぱりモンスターなんてこんなもんか…」
悲しげにだが少し満足気にそう呟く。
そして5人にかけていた魔法と魔言を指を鳴らして解くとこう問いかけるのだった。
「君たち、生きてる?」
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