第20話
「行くぞシエラ!」
「はい!兄様」
実力試しの模擬戦が始まった。
「烈火よ 槍撃を以て 敵を穿て!フレイムランス!」
「猛火よ 雨となって 敵を焼き尽くせ!ファイアレイン!」
シエラが火の矢の雨で退路を塞ぎ、そこにグランが火の槍で攻撃をする。矢を防げば槍に穿たれ、槍を防げば矢の雨に見舞われる。なかなかに連携の取れた攻撃だ。だが
「クリスタルフリーズ」
エクレールがそう唱えるだけで、その全てが凍ってしまい地面へ落下する。
「「え!?火が凍った!?」」
正確には火を水晶で覆ってしまっているだけだ。というものの、無形の物を水晶内に閉じ込めるのはとても難しい技術なのだが。
それをエクレールはいとも簡単にやってのける。
「さあ、まだ始まったばかりだよ!グレイストリシューラ!」
エクレールの前に現れたのは自身の背丈の倍ほどの氷の槍が3本。それがグランとシエラに向かって飛んでゆく。
「「なっ(えっ)!?」」
2人は反応できず氷の槍をもろに食らい、数m吹き飛ぶ。魔法障壁が貼られていてなお、人が吹き飛ぶだけの威力が出ているのは、単に魔法の練度がずば抜けて高いからだろう。
同じ魔法でも練度が高ければ、消費する魔力がより少なく、威力はより強くなるものだ。
「ぐはっ!…痛みこそあるが、体にダメージは残らないって仕組みかよ」
「くぅっ…無詠唱でこれだけの威力が…」
そう。通常であれば、詠唱が短くなればなるほど魔法は威力が下がる物だ。
無詠唱の時は、詠唱をすべて行う完全詠唱のときに比べて威力は1/3程度になってしまうと言われている。
だが魔法を極めたエクレールは無詠唱でもほとんど威力減衰はない。今はわかりやすく魔法名を口にしているが、それに縛りはなく発動の意志があればどんな言葉でも、なんなら言葉を発せずともそのままの魔法を使うことができてしまう。
だが、そんな魔法をいくら受けても痛みはあるが、体は動くので戦えてしまう。そんな超スパルタな環境の中、グランとシエラは全力で戦った。
だが全力の魔法を撃ったとしても、その悉くをエクレールがなかった事にしてしまうので5分と持たずに魔力が尽きてしまった。
「クソっもう魔力が…」
「…もう無理です〜」
2人共魔力尽きてだるいのか床にへばっている。
「もう無理そうだね。私の勝ちだね」
一方でエクレールは、息も格好も全く乱れておらず普段どおりだ。
エクレールの方がより高次元の魔法を使っているのでいくら練度が高いとはいえ、消費魔力は二人よりも多いはずなのだが。
そもそもの総魔力量がずば抜けているが故に全く苦にならないということだ。
「はい、2人共、手出して」
グランとシエラはお互いに何だ?と思いつつもエクレールに重い手を差し出す。
エクレールがその手に触れると、触れたところから魔力を流していく。
2人はそれに驚き慌てて起き上がると、体の調子を確認する。
「凄いです!今まで以上に力がみなぎってるのを感じます」
「魔力まで回復出来るとなると、それ戦闘終わらないんじゃ…」
その通り。いくら攻撃を受けても結界が回復するから怪我をせず、いくら魔力を使っても私の魔力が無尽蔵なのでいくらでも受け渡せる。
それはつまり私がやめない限り半永久的に戦闘が続くということだ。
これは先代龍神アルテマ直伝の特訓方法だ。
最も、こんな無茶な事が実現できるのは、先代と私ぐらいなものだが。
というのも、最強を象徴する龍の神である龍神は、創造神があらゆる物を作る創造の力を持つように、常に最強で有るための力がある。
では最強とはなにか。
エクレールはそれを万能である事だと思っている。
万能というと器用貧乏とも捉えられなくもないが、それはあらゆる事を中途半端に修めたが故に、何かを極めた者には勝てないので器用貧乏と言われるのだ。
ならばあらゆる事を極めてしまえば良い。100人の達人がいるのならばそのすべての技を自分も極めればいい。
1を極めた100人と100を極めた1人であれば後者の方が強いと思っているし、実際今までの経験がそれを証明している。
つまりエクレールの権能は、須くありとあらゆる事を瞬時に極めることができる。相手の全てを理解し、それを今までの知識、経験等と掛け合わせ昇華させることで常に進化をし続けることができる。
とても簡単に言えば完全コピー×合成だ。
それがたとえ、神の権能や個人の固有能力であったとしてもコピーして使うことができてしまう。
しかもそれを他のコピーした力と共に使うことでオリジナルよりも強力な力となる。
それに加えて龍種故に力や魔力といった身体的なスペックがずば抜けて高いのだ。
最強でないはずが無い。
そんな龍神がコピーした複数の能力を結集して編み出されたのが、この特訓方法なのだ。精神的苦痛を考慮しなければ最適解ではあるのだろう。
精神的苦痛を考慮しなければだが。
「よし!調子も良くなったみたいだし今日はハースが来るまでこれ続けようか!」
「「ハース!早く来てくれ(下さい)!!」」
そうしてハースが来るまでの数時間、2人は龍神式の特訓を受け続けるのだった。
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