第19話

 修練場へと向かうエクレールとハース。

 その途中エクレールはふと思う。


(そういえばアインとの戦い以来着物着っぱなしだな。魔法の先生になるわけだし気分変えようかな)


 そう決めると行動は早い。

 エクレールはその場で立ち止まる。


「どうかされましたか?」


「いや、ちょっとね」


 そう言うとエクレールはその場でクルリと回って見せる。

 すると着物姿から丈の長い白いローブを纏った姿へとかわる。エクレールが着替えるのに場所も時間も必要ないのだ。


 ハースはそれを見て驚いている。


「空間魔法が使えるとそんなこともできるのですね。便利そうです」


「空間魔法が使えてもこれができるのは私くらいだと思うけどね。まぁ、でも実際便利だよ。この早着替え」


 そんなことを言いながら再び歩き出す。

 ちなみにこのローブは先代との修行の最中、切り落とされた龍形態の自分の革や鱗を使用している。

 尻尾や手足の1、2本が切られようとも先代の回復魔法でどうにかなってしまうのだ。それで切り落とされた尻尾等を素材として、先代が神界の技術を結集して作らせた物だ。

 貰った当時はとても微妙な気持ちになったものだが、やはり自分の素材なだけあって馴染みはいい。

 まるで自分の体と一体化するような感じだ。(本当に自分の体の一部を使っているのだが)

 補足だがあの修行のせいで龍形態になるのは少しトラウマだ。


 そうこうしているうちに修練場へと辿り着く。

 騎士達が修練をしているが修練場の右半分はガラ空きだ。こちらのスペースを貸してくれるのだろう。

 よく見れば二人の人影が端の方にある。

 シエラとグランだ。


「あー、そうだとは思ったけどグランも一緒なんだね」


「俺がいちゃ悪いかよ?魔法の授業はここ使うから二人纏めて受けることになってんだよ」


「なるほど。まあ一人増えたところでやることはさして変わらないけどね」


「エクレール先生お願いします!」


 何か不満げなグランに対しシエラはやる気満々といった表情だ。


「ではご夕食の時間になりましたらおよびに参りますね」


「うん。ありがとねハース!」


 案内を終えたハースはそういうと館の方へ去っていった。


 ここから夕食の時間まで初授業の始まりだ。まず、することといえば自己紹介だろう。


「うん、じゃあ改めて自己紹介をしようか。私はエクレール。得意な魔法は空間魔法。とはいえ他の属性の魔法もほとんど使えるけど。よろしくね。じゃあ次はグラン」


「お、おう。グラン・メルセンだ。使える魔法は火と土だ。…よろしく」


 エクレールに指名されて渋々といった感じだ。


「次は私ですね!シエラ・メルセンです。使える魔法は火と風です!よろしくおねがいします!」


 グランとは違い元気のある気持ちのいい自己紹介だ。


「それより、ほとんどの魔法が使えるってつまりオールってことですか!?」


「オール?」


 オールについて聞くと、この世界には基本属性と呼ばれる属性が5つある。

 火

 風

 雷

 土

 水

 の5つだ。

 その内2つ扱える者をセカンズ、3つでサーズ、4つでフォース、5つでオールというらしい。

 更にここから複数の属性を合わせた性質変化による魔法があったり、空間魔法のような特殊な魔法が存在するのだが、そもそも適正のある人間が少ないためほとんど継承できていないらしい。

 ちなみにエクレールが盗賊相手に使っていた氷の魔法は性質変化による魔法だ。


「なるほどね。その話からすると私はオールであり、複数の性質変化や特殊な魔法も使える凄い魔法使いってことになるのかな?」


「あのマーリン様と同じオールでその上特殊な魔法も使えるなんて、やっぱりエクレール先生は凄いです!」


「マーリン様?」


 今日は知らない単語がよく出てくる日だ。


「国内最強の魔法使いで今は宮廷魔導士団を率いているお方です!魔法使いならみな憧れる凄い人なんです」


「へぇ。一度は会ってみたいものだね」


「私もです!」


 ん?さっき会った人がマーリンって言ってた気がするが気にしないことにしよう。

 エクレールは話を先へと進める。


「とりあえずその話は置いといて、まずは二人の力を見せて貰おうかな。力量が分からなきゃ何教えていいかわからないからね」


「それって魔法戦をするってことか?」


 今まで沈黙していたグランが口を開いた。


「そういうことになるね。ルールはそうだね…私に魔法を一撃あてたら勝ちってことでいいよ」


「敗北の条件は?」


「二人の敗北条件はギブアップって言うことかな」


 グランは正気か?と耳を疑う。


「それはそっちは攻撃しないってことか?」


「いや、攻撃するよ?」


 そういうとエクレールは指をパチンと鳴らす。

 すると貸してもらっているスペースに結界が貼られていく。


「ただ、二人にはこの結界によって、常に魔法障壁と回復魔法がかかるから、魔力が切れるまで戦い続けられると思うよ?」


「つまりこちらの魔力が尽きるか、諦めるかが敗北の条件ということですね」


 敗北条件をシエラが的確に纏めてくれる。


「そういうこと。じゃあ二人共準備はいい?」


「二人纏めて相手するつもりか?」


「そのつもりだよ?もっとハンデをつけてもいいと思うけどまぁ初戦だからね」


 エクレールは当然といった表情でうんうんと頷いている。


「舐められたもんだな。シエラ、メルセンの名にかけて勝つぞ」


「はい!先生に教えてあげましょう!」


 なにやら二人が一致団結したようだ。これで少しは面白くなるだろうか。


「二人共準備は良さそうだね。じゃあかかってくるといいよ!」


 こうしてシエラとグランの力量を測るための戦闘が始まるのだった。

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